第二次世界大戦後のアメリカ社会において巻き起こった、ビート・ジェネレーションという文学運動。代表的な人物には、ジャック・ケルアック、アレン・ギンズバーグ、ウィリアム・バロウズらがおり、彼らの作品や思想は、アンディ・ウォーホル、ジム・ジャームッシュ、ボブ・ディランやジョニー・デップといった、数多くのアーティストたちにも影響を与えたことで知られています。

 

 後世のカルチャーにまで大きな影響を及ぼした、ビート・ジェネレーション。本書『新約ビート・ジェネレーション』の著者・北口幸太さんは、このビート・ジェネレーションから得られる精神こそ、昨今のポップ・カルチャーのある種のつまらなさから脱却する道を示してくれているのだと指摘します。



 そこで本書では、ビート・ジェネレーションが起こった当時のアメリカ社会の状況を説明しながら、その思想や言葉、姿勢や行動を分析していきます。ビート・ジェネレーションの精神。それは、当時のアメリカ社会への抵抗として生まれたものなのだとか。



「表面的には、バブル社会で、一般市民の所得も増え、一家に一台の自動車・テレビといった豊かな生活が実現され、安定した社会が形成されているように見える背後では、国家の国民への支配、見えないところから国民をコントロールしようとする政府の圧力が強まっていた。また、ゆたかな社会とは無縁のところにある黒人社会と人種差別、このようなアメリカの光と影のなかからビートは生まれてきた」



「ビートはその素直な心で、戦後のアメリカ社会に疑問を持ち、自分たちの知識と賢さで新たなる道を開拓し、探究し、行動した人々である」



 北口さんが、"ビート・ジェネレーションに見受けられる精神が、今のポップ・カルチャーに必要"と説く理由が、ここにあります。大衆社会に媚びたり、画一的な世の中に満足してしまうことを避け、あくまでも自らの表現欲求のままに作品を創造すること。こうしたビート・ジェネレーションの、意志を持った強い探究心に基づく姿勢こそが、「『世間のニーズ』に答えすぎて、その『意図』が歪められ」てしまいがちな、現在のポップ・カルチャーの場において必要なのです。



「今こそ、ビート・ジェネレーションの精神が、必要な時ではないかと考える。彼らの精神を、現代に置き換えると、『勇気をもって自分たちの思いの丈をぶちまけろ』ということだ。アーティストの側にも、オーディエンスの側にも、こういった精神は、少なからず必要であると言及する」(本書より)



 ビート・ジェネレーションが、なぜ多くのアーティストたちに影響を与える、豊かな創造作品を生み出し得たのか。その精神に触れることで、社会にどっぷりと浸かっているうち忘れがちになってしまう、人間本来が持つべき意志や情熱を感じることが出来るのかもしれません。