『本の底力 ネット・ウェブ時代に本を読む』新曜社
『本の底力 ネット・ウェブ時代に本を読む』新曜社

 世界全体が持ち合わせる、莫大なる情報やデータ。それらは日々増え続け、東京オリンピックが開催される2020年までには、40ゼタバイト(1ゼタバイト=1兆ギガバイト)にも及ぶ量になるのだといいます。ちなみに40ゼタバイトという量は、地球上すべての浜辺にある砂粒全量の57倍に相当する量なのだそうです。

 アメリカの調査会社IDCによってなされた、驚くべきこの予測。書籍『本の底力 ネット・ウェブ時代に本を読む』の著者・高橋文夫さんは、こうした予測を受け、デジタルデータの生成に拍車をかけるネット・ウェブが隆盛する今だからこそ、そうした媒体から離れた紙の本を読むことの意味を問い直さなければならないといいます。

 デジタルメディアの利便性は享受しながらも、なぜ紙の本を読む行為も失われるべきでないと高橋さんは主張するのでしょうか。

 高橋さんは紙の本ならではの特性に注目し、その底力は大きく次の3点にあるのだと指摘します。

 まず1つめは、

「形や重みがあり一定の秩序のもとで自己完結している『本』という存在それ自体が、データや情報が増大、拡散するデジタル時代、ウェブ時代にあっては一種のアンカー(錨)としてとりわけ意味のある存在であること」(同書より)

 本のもつ形や重さ。そして表紙、目次、内容、裏表紙といった一連の順序に沿って展開される、秩序だった存在だということが重要なのだといいます。
 
 2つめとしては、

「本を手にとって読むことが『脳』の働きを活発にし、手の『皮膚』感覚にもよい刺激を与える、そしてそのようにして読書で得られた脳の充実感や皮膚の快感という印象は、本人の精神や身体にいつまでも快い記憶として残り続けること」(同書より)

 手で本に触れながら読むことによって、具体的に脳は如何なる影響を受けるのでしょうか。特に日本人は、この皮膚感覚、触覚に鋭敏な民族なのだそうです。
 
 そして3つめ、

「本に没頭し本と一体になる読書の行為というのは、あわただしいデジタル化の流れのなかで、自分をもう一度見つめ直し自己をとらえ直すのに有効な手段であり、誰もが手軽に取り組める黙想や瞑想方法でもあること」(同書より)

 高橋さんは以上の3点から、本のもつ効力を詳しく分析していきます。

 デジタル文明と活字文化とを上手に融合させ、場面に応じて使い分けるということ。ますます拡散・増大する情報社会において、個人個人が意識的に読書を巡る問題に向き合うべき時が来ているようです。