先月18日に、イギリスからの独立の是非を問い、スコットランドが行なった住民投票。結局は反対多数で独立は否決されましたが、この問題は欧州各地に波及し、同じく独立論の根強い、スペインのカタルーニャ自治州やバスク自治州などへの影響も指摘されています。また、欧州からはるか離れた日本でも、それらと絡めて「沖縄独立論」を語る人が出てくるなどしました。



 もちろん、スコットランドやスペイン・カタルーニャ自治州のような地域と、日本の沖縄県の「立場」はまったく違います。そもそも、沖縄では県民のほとんどが独立を望んでおらず、事実、2006年の沖縄県知事選挙では「沖縄独立」を訴えた政党「かりゆしクラブ」は、得票率0.93%で落選する結果に終わっています。



 とはいえこうした独立論が出る背景についても考えてみる必要はあるかもしれません。ひとつは、米軍基地問題に多くの沖縄県民が不満を持っていること。そして、スコットランドがそうであったように、沖縄も本来は「まったく別の国」だったという歴史的事実です。



 かつて琉球王国は、日本の薩摩藩の支配を受けつつも、大国・清とも朝貢貿易を継続するなど、外交手段を駆使して二重外交を続けていました。琉球政府主導で、韓国・ベトナム・マレーシアなど東南アジア諸国とも貿易を行ない、王国は500年の長きにわたり繁栄していたのです。



 本書『テンペスト』は、そんな琉球王朝を舞台に、架空の主人公・真鶴(まづる)を据えて描いた作品。2011年には、沖縄出身の仲間由紀恵さんが真鶴を演じ、NHKBSでドラマ化もされています。



 物語の主人公・真鶴は、男装して孫寧温(そんねいうん)と名乗り、語学の才能を生かして難関の試験を突破し、男性として王朝に仕えます。財政改革を成し遂げるなど政治的手腕を発揮した寧温は、18代目の国王・尚育王の信頼を受けて異例の出世を遂げたものの、謀反人の嫌疑で失脚し、島流しに。配流先で女の姿に戻った真鶴は、宮中に戻るために今度はなんと尚育王の息子・尚泰王の側室になってしまいます。同じころ、ペリー来航の危機に瀕した琉球政府は、寧温を呼び戻すことを決定します。かくして、夜は側室・昼は官僚という、真鶴/寧温の波乱万丈な二重生活が始まりますが...。



 本書で使われる、数々の"琉球語"、例えば、国王の尊称は首里天加那志(しゅりてんがなし)。側室は、阿護母志良礼(あごむしられ)。士族の称号は親雲上(ぺーちん)など、独特の言葉に驚かれる方も多いでしょう。日本と中国、両国の影響を受けながらも、歌謡「おもろそうし」や「琉球舞踊」など、琉球王国は独自の文化を発展させていました。



 1879年の琉球処分で日本国に併合され、琉球王国は歴史上消滅します。戦後はアメリカの統治下に置かれ、1972年の沖縄返還後も、在日米軍基地の75%が沖縄県に集中するなど、現在に至るまで県民に一方的に負担を強いる状況が続いています。



 本書を読み終えた際には、この物語が描こうとしたのはヒロイン・真鶴ではなく、激動の歴史をたどった琉球王国そのものであったことに気付く方も多いでしょう。架空の主人公の目を通して、琉球王国の転換期を描いた本作、沖縄県の知られざる歴史を知るためのきっかけとして、ぜひ手にとってみてはいかがでしょうか。