夏の書店の風物詩、文庫フェアが今年も店頭を飾っています。新潮文庫の100冊、カドフェス(角川文庫)、ナツイチ(集英社文庫)、さらに最近では出版社主導のラインナップに頼らず、書店側が独自に選書して仕掛ける文庫フェアも見られるようになりました。長い夏休み、何か読んでみようかとにぎやかな店頭に誘われて文庫本を買ったことがある方も多いでしょう。



 誰でも一度は手に取ったことのある文庫本ですが、いつ、どこで、どのように生まれたのかご存じですか?



 そのルーツをたどると、500年以上前のヴェネツィアにたどりつきます。ルネッサンスの花開く〈海の都〉に、美的センスとひらめきに恵まれたひとりの熱き出版人がいました。彼の名はアルドゥス・マヌティウス。彼の生み出した小さくても美しい小型本はヨーロッパ中を熱狂させました。一行に収まる文字数を増やすために、アルドゥスは流れるような筆記体を発明し、これが現在のイタリック体の原型となっています。



「考える人」(新潮社)2014年夏号特集「文庫──小さな本の大きな世界」では、文庫本の誕生から現在に至るまでの歴史を総力取材。『ジーノの家』などのエッセイも人気の、ミラノ在住のジャーナリスト内田洋子さんが、アルドゥスの遺した業績を現地取材。今見ても美しい文字組みが大きな写真で掲載されています。



 また、絶対音感ならぬ絶対"文字"感をもつエッセイスト正木香子さんは、集英社文庫、岩波文庫、角川文庫、ちくま文庫、新潮文庫版の『銀河鉄道の夜』(宮澤賢治)を読みくらべ。見事に使用書体がすべて違う文庫五社。同じ文章でも違う書体で読むと、おのずと印象も違ってきます。あなたのお気に入り書体はどれですか?



 文庫本を書く、読む、つくる。さまざまな関わり方があります。角田光代さん、坪内祐三さん、祖父江慎さんの鼎談では、文庫本を愛するがゆえの辛辣な意見も飛び出して大盛り上がり。好きだからこそ辛口なことも言いたくなる。それでも「やっぱり文庫が好き!」なのです。



〈何より、文庫本は手で触れられるモノである。だから、まずはモノとして愛しい〉



 冒頭から文庫愛を高らかに表明しているのは作家の高村薫さんです。「私の小さな本」として、高村さん他、三上延さん、フィギュアスケーターの町田樹さんらが文庫本への思い入れを打ち明けています。



 その他、特別企画として、今号と次号の二回にわたって「シュタイデル──『世界一美しい本を作る男』を訪ねて」が掲載されます。昨年同題の映画が公開され、好評を博しました。研究所のような出版社が印象的でしたが、その映画の主人公・シュタイデル氏が本づくりを志したきっかけ、プロフェッショナルとしての心意気などを徹底的にインタビュー。



 本好き、文庫好きにはたまらないこの特集。必見です!