拳銃を発砲して応戦したものの、犯人に刺され殉職した警察官。しかしその殉職に隠された真相とは?(「夜警」)
 
 自殺が絶えない温泉宿。自殺前に誰かが置き忘れた遺書を手がかりに、今夜起きようとしている自殺を食い止めることが出来るのか?(「死人宿」)

 殺人を犯し刑期を終えた、かつての下宿の内儀。その殺人の本当の目的とは?(「満願」)
 
 米澤穂信さんの「満願」には、表題作をはじめとして「夜警」「死人宿」「柘榴」「万灯」「関守」の6つの短編が収録されています。登場人物たちはそれぞれ、自らの心に闇を抱えながら、それでもバランスを取り生活を送っていますが、ふとした偶然や必然が引き金となり生死に関わる事件が起きてしまいます。

 例えば「死人宿」の舞台は、主人公の昔の恋人・佐和子が仲居をやっている宿の温泉。その温泉には火山ガスの溜まりやすい窪地があり、楽に綺麗に死ねる場所だといって死にたい人たちの間で評判となり、一年中お客が絶えないのだといいます。そして、その夜、またもや一件の自殺が決行されようとしていたのです。佐和子は言います。

「四時から露天風呂の掃除に入ったの。そうしたら、脱衣籠のひとつにこれが落ちていた。ああ、またかと思ったわ。こういう白い封筒、前にも見たことがあったから。でも、脱衣所でというのは初めてだった。それでお客さんの様子を確かめたけど、いまのところ全員無事でいるわ」
「つまり?」
 浅い溜息をついて、佐和子はその言葉を言った。
「遺書の落とし物よ。これから誰かが死のうとしている」

 その日、宿に泊っているのは、若い男性、髪が長くて痩せている女性、短い髪を紫に染めている女性の三人。この三人のうち、一体誰が遺書を書き、死のうとしているのか。そして、その遺書の主を突き止め、自殺を食い止めることができるのか。意外な結末を予想するヒントは、三人に関する描写に記されています。

 奇妙な事件の数々。その事件の真相を解く重要なキーワードは、思わず見逃してしまいがちな些細な描写の中に、巧妙に忍ばせてあるのです。
 一語一句読み落とすことを許さない緊張感溢れる6つの短編。究極のミステリーに挑戦してみてはいかがでしょうか。