論文やレポートを提出する機会が多い学生だけでなく、社会人も企画書やプレゼン資料などで文章を書く必要性にかられることがあります。むしろ、文章能力の重要性は社会人になって実感することの方が多いのではないでしょうか。読み手に真意や意図を伝える文章を書くのはたしかに大変なこと。しかし、一度、その技術を会得したら仕事においても、プライベートにおいても一生モノの武器になるので、鍛えない手はありません。



 本書『文章ベタな人のための論文・レポートの授業』は、文章で伝える力を徹底的に鍛えることを目的にした一冊。著者は電気通信大学名誉教授でデジタルハリウッド大学客員教授の古郡廷治さんです。



 たとえば、本書の中で古郡さんはこんな文章を紹介しています。



「近年、国内の規模が小さくなったこともあって、我が国の産業は、新興国市場を含めた海外に、その事業の拡大を求める必要が出ている。グローバル化の波がどっと押し寄せているのである。こうしたなか、企業の海外移転に伴い、真にグローバルに通用する人材である『グローバル人材』という術語を耳にすることが増えた。経済産業省も『産学官でグローバル人材育成を』と唱えているほどである」



 実は、これはある学生が書いたゼミの報告書の一部。少し分かりづらい文章ですが、言いたいことは概ねわかります。しかし、古郡さんは、この文章についていくつかの問題点を指摘しています。



 まず、「必要が出ている」「どっと」「企業の海外移転」「術語」「耳にする」といった表現について、正しくないと一蹴。たしかに「必要が出ている」は「必要がある」でしょうし、「企業の海外移転」も「海外進出」とすべきところでしょう。さらに「グローバル人材」を「術語」というのはしっくりきません。また、古郡さんは「どっと」や「耳にする」は、報告書で使うには俗語的すぎる語句とバッサリ。さらに、論理展開にも無理があり、文章が明快ではないと語ります。この短い文章の中で、これだけのツッコミを入れる古郡さん、恐るべしです。



 続いて、古郡さんは以下の文章にも容赦なくツッコミを入れます。

「コンピュータの性能は日進月歩を続け、それに反比例して低価格化している」



 どこが問題なのか、おわかりでしょうか?



 これは主述が乱れた文章の一例として本書で挙げられた"悪文"。主語が「コンピュータの性能は」、述語が「低価格化している」となっているので、呼応関係が破綻している、というのです。つまり、正しくは「コンピュータの性能は日進月歩を続け、それに反比例してコンピュータは低価格化している」ということになります。



それでは次の文章の問題点はどこにあるでしょうか?

「アメリカのイラクへの軍事介入がテロを誘発しているといえなくもないのである」

 

 これは否定文によって文章全体が曖昧で、消極的なものになってしまった文章の一例です。 論文やレポートは知識や情報を正確に伝えるもの。つまり、明晰で、説得力があり、力強さを備えた文章である必要があると古郡さんは言います。誤解を生まないこと、著者が決めた意味をそのまま読者に伝えることが重要なのです。



 たとえ素晴らしいアイディアを持っていても、正しく伝えることができなければ意味がありません。特に仕事をする上では、企画内容や提案内容を文章で正確に第三者に伝えることが重要です。本書を読んで一生ものの文章力を身につけてみませんか? もしかしたら出世の近道になるかもしれませんよ。