東京・上野の上野恩賜公園を歩くと以前より少なくなったとはいえ、多くのホームレスを目にします。上野公園のホームレスは、集団就職や出稼ぎで上京してきた東北出身者が多いと言われています。1970年代、日本は高度成長期で、都市部や首都圏の建設現場などには多くの"働き口"があったため、

東北地方をはじめとした農村部出身の人々が、農閑期に出稼ぎをすることが一般的だったのです。



 やがて日本にはバブル景気が訪れ、ピーク時の92年には建設投資が約84兆円にも膨れ上がりました。多くの地方出身者が、建設現場などで汗を流し、家計を支えましたが、それも長くは続きませんでした。



 バブル崩壊、そしてその後、長きにわたり続く不況。多くの労働者が職を失い、特に立場の弱い人間は、ホームレスにならざるを得ませんでした。

 

 作家・柳美里さんが先月上梓した『JR上野駅公園口』は、かつて福島から東京に出稼ぎに来た男が上野公園でホームレスとなり、過去を振り返る長編小説作品です。そんな作品から伝わるのは、この時代、そして今の状況に対する彼女なりの警鐘。

 

 同書の後書きにはこうあります。

「昨年、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催の決定しました。先日、東京五輪の経済効果が20兆円、120万人の雇用を生むと発表されました。宿泊・体育施設の建設や、道路などの基盤整備の前倒しが挙げられ、ハイビジョンテレビなどの高性能電気機器の購入や、スポーツ用品の購入などで国民の貯蓄が消費に回され景気が上向きになるとも予想されています。一方で、五輪特需が首都圏に集中し、資材高騰や入手不足で東北沿岸部の復旧・復興の遅れが深刻化するのではないかという懸念も報じられています。オリンピック関連の土木工事には、震災と原発事故で家や職を失った一家の父親や息子たちも従事するのではないかと思います」





 柳さんはこうした状況と、日本が以前通った道を重ね合わせているのです。2011年の東日本大震災で職を失った人が、首都圏のオリンピック景気に働き口を求め、出稼ぎにやってくる。以前の高度成長期のように。その先に想像できるのはオリンピック景気が終わりを向かえ、職を失い、ホームレスとなってしまう人々の増加ではないか......と。



 

 東京オリンピックに目を向けるだけでなく、そこで働くであろう被災者に"光"をあて、見過ごすことのないようにしっかりとした支援を考え、復興をしていく必要がある。本書を読むと、こうした当たり前のことに気付かされます。そして、その当たり前のことを忘れそうになっていることも。