1996年に『すべてがFになる』で第1回メフィスト賞を受賞して作家デビューして以来、人気作を数多く生み出してきた森博嗣さん。押井守監督によって映画化された『スカイ・クロラ』は有名ですし、少しマイナーな作品では『僕は秋子に借りがある』という緻密で美しい傑作短編集もあります。



国立大学工学部の助教授として勤務しながら、小説を書いていた森さん。作品の傾向として、工学部の大学教授など理系の人物が登場することが多いことから、ウェブサービスを使っていそうなイメージがあります。実際、森さんは本書の中で「自分の欲しいものをすべてネットで買うようになった」と告白しています。



そんな森さんですが、Twitterは利用していません。それは果たして、なぜでしょうか?



「そもそも、ものを書くというのは、格好の悪い行為なのである。自分の思っていることをだらだらと書くのは、本当に賢い人間のすることではない、と僕は考えている。自分に関わる最小限のことだけ述べて、あとは黙っているのが、日本人の嗜みではないか。だから、作家というのは、格好の悪いことをして、その対価を得ている職業だ。よけいなことを言うことで、『馬鹿だなこんなことわざわざ書いて』と思われるから損をする。その分、原稿料や印税をいただくのだ。仕事というのは、すべてこの損と金の交換で成立しているものである」



近頃のネットでは、未成年者が、仲間内で行った悪ふざけをTwitterで写真付きでつぶやき、それがネットユーザーの目に留まって炎上する、ということがたびたび起こっています。Twitterでつぶやくことのハードルが低いことが大きな要因と言えるでしょう。森さんは、ネット上で簡単に"発信"できてしまうことに対し、疑問を呈します。



「なにかを発言すれば、誰かは傷つき、どこかからは批判される。言ったことに賛同してくれる人もいるけれど、そんな拍手をいくらもらっても、実質的な利益にはならない。たとえば、一人でも過激な人が批判的に捉え、そのために命を狙われるようなこともあるだろう。その場合、拍手をした人たちがガードしてくれるわけではない。社会に向かって発言するというのは、そういうことなのだ」



本書では、以上のような「Twitterをやらない理由」のほか、100項目に渡って、森さんの持論が"授業"という体裁のもと展開されます。何か悩み事がある方は、森教授の授業を受けてみてはいかがでしょうか。答えが見つかるかもしれません。