テレビのCM、ネオン看板、ステッカー、商品カタログ、ダイレクトメール、インターネットのバナー。私たちの生活の中には、広告が嫌というほどあふれています。



JTの「大人たばこ養成講座」をはじめ、ホンダ、資生堂、キリン、日本郵便などのキャッチコピーで知られるコピーライターの岡本欣也氏は、広告作りを「基本的に見られないもの、無視されるもの、反感すら買うかもしれないもの」であることを前提に行うと明かしています。



振り向いてもらえない状態からスタートして、いかにして好きになってもらうか、どうすれば商品を買ってくれるかなどを、日々考えているという岡本氏。広告に使われるコピーのほとんどは、「売り言葉」と「買い言葉」の二種類にわけることができると、書籍『「売り言葉」と「買い言葉」心を動かすコピーの発想』の中で語っています。



岡本氏の言う「売り言葉」と「買い言葉」とは、そもそもの意味である「相手の暴言に応じて、同じ調子で言い返す」とは異なります。「売り言葉」は、売り手(企業)の目線で書かれたコピーのことで、売り手の主張をわかりやすく、ストレートに表現しています。



一方、「買い言葉」は買い手の目線で書かれたコピーのこと。「買い言葉」は、コピーと商品との関係が「売り言葉」のように一直線に結ばれていないので、コピーだけ取り出しても、何の商品の広告なのかがわからない時があります。広告はコピーだけで成立しているわけではありません。ビジュアルをはじめ、少し長めの文章・ボディコピーや商品名、ショルダーコピー、タグラインといった様々な情報があって、広告として成立しています。それら多くの要素があることによって、「買い言葉」は自由な表現が可能になっているのです。



それでは、どのようなコピーが、「売り言葉」と「買い言葉」に該当するのでしょうか。



 "言うべきことから最短距離で伝える"のが、売り手目線である「売り言葉」の特徴です。「売り言葉」のお手本コピーとして、同書で紹介されているのが、吉野家の企業スローガン「うまい、やすい、はやい」です。この短いコピーのなかには、ファストフードチェーンである吉野家にとって重要なポイントが、端的に表現されています。他にも、コピー界の巨人・仲畑貴志氏の「ベンザエースを買ってください」や、化粧品メーカー・丹頂のテレビCMのコピー「うーん、マンダム」などが「売り言葉」それに該当します。



「買い言葉」の代表例としては、日産のフィーロの広告で使われたコピーの「くうねるあそぶ。」が紹介されています。食う、寝る、遊ぶといった言葉だけを抜き出してみても、何のことかはわかりにくいですが、このコピーが車の写真や映像と共に使われると、実に効果的であるそうです。



「その理由は、クルマとコピーの距離感にあります。『くうねるあそぶ。』は直接的にはクルマと関係ないけれど、クルマに乗ることでえられる楽しみと、ギリギリつなげて考えることができる。その距離の大きさが、想像力の大きさになるのです」(岡本氏)。



 吉野家と日産のコピーを比較してみると、「売り言葉」と「買い言葉」の違いがわかりやすいかもしれません。



「どちらも三つの言葉を重ねていますが、『うまい、やすい、はやい』は売り手である吉野家の主張です。『くうねるあそぶ。』は、セフィーロに乗る人、つまり買い手の気持ちに寄り添って、商品とは離れた世界で語られます」(岡本氏)



あなたが気になったその広告は、「売り言葉」ですか?それとも「買い言葉」でしょうか?気になる広告を分析しながら楽しむのも良いかもしれません。