お経と現代詩を融合させた独自の仏教的世界観を描く、詩人の伊藤比呂美さん。作家として「野間文芸新人賞」「紫式部文学賞」を受賞するだけに留まらず、写真家・荒木経惟、評論家・上野千鶴子、アダルトビデオ女優の黒木香との共同作品を発表するなど、常に新しい表現を模索しています。



 フェミニストとしても知られる伊藤さんは、意外にも『スラムダンク』『バガボンド』などの「男の世界」を描いた作品で知られる、漫画家・井上雄彦氏の大ファン。書籍『漫画がはじまる』では、対照的とも言える2人の対談が実現しています。



 伊藤さんをナビゲーターに、井上氏の半生と作品世界に切り込む本作。普通であれば見落としてしまいそうな細部まで、読み込んでいることに驚かされます。



 伊藤さんが興味を持ったというのは、『スラムダンク』に登場するキャラクターたちの「親」。同作では、河田兄弟の母親・まきこさんをはじめ、赤木の両親、桜木の父親、三井の母親、沢北の父親が登場しています。しかし、顔が出てくるのは、河田の母と沢北の父だけです。



 全体的には親の描写が少なく、息子の勇姿を観るために試合会場を訪れるといったシーンはわずか。思春期を迎える「現代っ子」たちにとって、親の観戦は恥ずかしいものなのかもしれません。



 1960年代から1970年代にかけ、スポーツ根性もののマンガ「スポ根」が少年誌を中心に人気を博しました。『スラムダンク』の湘北高校の生徒たちと安西先生の関係のように、師弟の関係を描いた『あしたのジョー』『エースをねらえ!』『アタックNo.1』のような「スポ根」作品も存在しています。



 しかし、この時代の「スポ根」の特徴といえば『巨人の星』『柔道讃歌』のように、勝利のために血の滲むような努力をする「親子」を描いた作品が登場したことでしょう。現在も、様々なスポーツ漫画が連載されていますが、この時代の作品ほど親子の姿を濃く、深く描いているものはありません。



 スポーツに励む「現代っ子」と親との関係を、少し違った角度で描いているのが、仮屋崎耕氏の超短編小説『オカンがチアリーダー』です。この作品では、野球部に所属する子供を熱心に応援する母親の姿が描かれています。



「かっとばせー、カズオ! 頑張れ頑張れ、西高!」



 コールド負けが決定的だった弱小高校の試合を観戦しているのは、この日のために仕事を休んでいる「カズオのオカン」。なんとガラガラのスタンドで一人チアリーダーの衣装をまとい、カズオを応援しているのです。



 同作は、超短編小説を数多くそろえるアプリ「ナノベル」で展開中の作品。2000文字以内で書かれた小説を読むことができる気軽なアプリで、現在iTunesのApp Storeにて、無料ダウンロードが可能となっています。(Android版は9月リリース予定)。



 まわりからもれる失笑。チアリーダーとして、息子を勇気づけようとするオカン。果たして、カズオと野球部は、どのような結末を迎えるのでしょうか。



(リンク)

超短篇小説ナノベル : nanovel

https://itunes.apple.com/jp/app/nanovel/id571872842?mt=8