(写真:WEB本の雑誌)
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県庁の星 スタンダード・エディション [DVD]
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2005年に上映された映画『県庁の星』や、『容疑者Xの献身』『アマルフィ 女神の報酬』など、多くのヒット作を世に送り出し、今年6月29日にはガリレオシリーズの最新作『真夏の方程式』が公開される映画監督の西谷弘さん。そんな西谷さんが語ってくれたのは、幼少期に読んだある本にまつわる記憶でした。



ぼくの場合、読書に対するいちばん古い記憶は恐怖ですね。当時何歳だったかは忘れてしまったんですけど、幼稚園のころに絵本の『花咲かじいさん』を読んだんです。花咲かじいさんが灰を撒くと、枯れ木に花が咲くビジュアル的にも非常にインパクトのある作品でした。でもそれ以上に"欲張りじいさん"が牢屋に入れられる最後のシーンが衝撃的だったなと。頁をめくれば、最後にもう一度ハッピーエンドな絵と文章がくると思ったら、こなかった(笑)。



――確かに、子どもが読む童話にしてはシリアスな終わり方ですよね。

そうなんですよ。それでぼくが思ったのは、殿様からもご褒美をもらって幸せになった花咲かおじいさんが、その後どうなったのかっていう...。だからどうしても気になって、父親に聞いてみたんですね。すると父が一言"死ぬんだよ"って。(苦笑)小さい子どもにですよ? 死というものを実際に目の当たりにした経験がなかった当時のぼくには、すごいショックな出来事でした。



――それは衝撃的ですね...。

しかも、ぼくは父親が年をとってからの子どもだったので、物心ついたときはもう白髪でしたし。そんな父親が花咲かじいさんとリンクしてしまって...。それで "じゃあ、お父さんは?"と質問をすると、"死ぬんだよ。みんないつか死ぬんだから"と答えられて、しばらく火がついたように泣いていました。それ以来、なんだか本を読むのが怖くなってしまったんですよ。



――「読書は恐怖」という衝撃の体験をした西谷さんでしたが、小学校に入りドイツ文学が原作の"あるミュージカル"に出会ったことがキッカケで、また読書にのめり込んだのだといいます。



小学校4年くらいの時に、「子どものためのミュージカル(ニッセイ名作劇場)」が日比谷のニッセイ劇場で行われて、学校の移動教室で行ったんです。そこで観たのが『ふたりのロッテ』という作品で、ルイーゼとロッテという双子の女の子の話なんですが、これにえらく感動したんですよ。それで、もう1回観たいなと思ったんですが、まだ子どもで親にも頼みづらく、結局行けなかった。そこで原作の存在を知って、初めて自らの意思で学校の図書室に行き、エーリッヒ・ケストナーの『ふたりのロッテ』を手に取ったんです。読んでみるとミュージカルで観た色彩や音がよみがえるのは勿論、本ならではの表現力に圧倒されました。



――それはいま映画を作るうえでも、影響として残っていますか?

もちろんです。僕も映画を作るときは、原作を2時間に切り取るという条件のなかでいかに深みや重みを出せるか考えています。舞台や映像作品と原作には全く違う感動が存在するというのを初めて知った瞬間でしたね。それからは積極的に本を読むようになりました。





次回は、西谷さんの好きな小説や、最新監督作品『真夏の方程式』についてお聞きします。お楽しみに!







《プロフィール》

西谷弘(にしたに・ひろし)

1962年生まれ。東京都出身の映画監督。『白い巨塔』をはじめとする人気ドラマの演出を手掛ける傍ら、2005年に映画『県庁の星』で映画監督デビュー。『容疑者Xの献身』『アマルフィ 女神の報酬』など、多くのヒット映画を監督として世に送り出しており、今年6月29日には東野圭吾のガリレオシリーズ最新作『真夏の方程式』が公開される。