夫婦にとっての最も大きな問題といえば、「浮気」なのではないでしょうか。



 20~30代既婚男女200名を対象に「夫(もしくは妻)に、隠れてされたら嫌な行為は何ですか?」と、アイリサーチが調査したところ、男女共に1位が「浮気」という結果になりました。借金やギャンブルなど、夫婦にとって見過ごすことのできない問題もランクインしていましたが、浮気は互いの信頼を損なう問題。離婚に最も近いトラブルと言えるのではないでしょうか。



 芸能ニュースでも浮気ネタは尽きることがありません。モデルとの浮気現場に旦那が遭遇したと報道されている矢口真里のように、最近では、浮気は男性だけの問題ではなくなってきました。



「私は夫が絶対に浮気をしていると思っているし、それならばそんな人死ねばいいと思っている。私を愛さないで他の人を愛しているなんて、残酷すぎる。失礼だ。あの人は私に対する侮辱を償って死ぬべきだ。あの人は一生私を愛すると何度誓ったことか。私だけを」



 これは、『冥土めぐり』で芥川賞(2012年上半期)を受賞した鹿島田真希さんの新作『暮れていく愛』に登場する女性の言葉。同作は、職場で出会って結婚したとある夫婦の物語です。結婚から10年経ちますが、まだ子供はいません。職場の女の人に親切に接する紳士的な夫と、旅行やスイーツなどに興味のないおとなしい専業主婦。



女性はある日、証拠がないのにも関わらず、夫の浮気を疑います。



「男が女を一生愛する保証なんてないことはわかっていた。だから私はいつも、一生なんて本当? などとは訊かなかった。もしそれができなかったらどう責任取ってくれるの? とも言わなかった。だけど今思うとその辺をはっきりさせておけば良かったと思う」



と、夫への疑いは確信へと変わっていきます。



 そんな同作ですが、浮気調査を行うなどの一辺倒な展開とはいきません。男性の思いと女性の思いが、交互につづられます。つまり、読者は双方の本心を知ることができるのです。そして、物語は浮気を切り口に、人間の本質的な部分にせまっていきます。



 ただの浮気本とはいかないのが、芥川作家・鹿島田さん作品の魅力。夫婦の危機をきっかけに、「異様な記憶の蓋」をあけてしまったのです。