「で、(その話の)オチは?」「いいネタになるじゃん」「ツッコミ厳しいな」などは、私たちの日常に定着した「お笑い的コミュニケーション」の代表例。テレビ番組に必ずや登場する「お笑い芸人」たちに鍛えられた視聴者は、日常においても芸人の言葉を使いこなし、芸人同様に「ウケ」や「オチ」などを気にするようになりました。



 同様にあふれているのが、企業のイメージ向上、商品やサービスの販売促進を目的としたニュースやCMをはじめとする「広告」です。広告の目的は、顧客が消費などの「行動」につなげるように、欲望を喚起すること。企業が伝えたいことだけを説明する広告や、クリエイターが好き放題作ったアートCMなどは、人々が求めるものとはあまりにもかけ離れています。これでは、多くの情報から取捨選択する消費者に、「行動」どころか「スルー」されてしまうことでしょう。



 博報堂のコピーライターであるタカハシマコトさんは、著書『ツッコミュニケーション』の中で、これからの広告のヒントは「お笑い」の中にあると指摘しています。「ツッコミ」と「コミュニケーション」を掛けあわせた「ツッコミュニケーション」は、「漫才で笑いが起きる構造」をモデルにしたタカハシさんによる造語。企業が生活者を漫才における「相方」としてとらえ、彼らの意識や行動を汲む。そして、今まさに盛り上がっている「ツッコミどころ」のある話題を「ネタ振り」して、消費者からのリアクションをもらい、効果的に話題を広める。この一連の双方向なコミュニケーションを「ツッコミュニケーション」と呼んでいるのです。



 タカハシさんが、「ツッコミュニケーション」の事例の1つとして挙げているのが、ネット販売を中心とした生命保険会社「ライフネット生命」が、マザーズ上場時に展開したプロモーションです。ウェブ制作会社5社がそれぞれコンテンツを制作し、ユーザーの参加と投票によって優勝を争うというものでした。



 そのうちの1社である「はてな」が企画したのは、「出口社長におもしろいセリフを言わせてお祝いしよう」というキャンペーン。出口社長が登場する画像に好きなセリフをつけて「1コマ漫画」を作るというもので、画像は転職関連のバナー広告「うわっ...私の年収、低すぎ...?」や、お笑い芸人・スギちゃんの持ちネタ「ワイルドだろ~」など、すべてネットや世間で有名なものでした。



 サービスのターゲットであるネットユーザーにウケる文脈を理解し、社長自身がユーザーのパロディの対象となり「ツッコミどころ」を提供した本キャンペーンは、たちまちウェブ上で話題に。1ヶ月間で、Facebookで3600もの「いいね!」を集め、15万ページビューを記録。計40万人以上が閲覧し、多くのニュースサイトにも取り上げられるなど、まさしく「ツッコミュニケーション」を体現する企画となりました。

 

 企業が情報発信の主導権を握っていた時代と違い、消費者自らが情報を発信し、ユーザー同士でのやり取りを楽しんでいます。漫才は、1人では出来ません。そして、1人よがりな広告では、消費者は動きません。対等な「相方」の存在を常に意識した「ツッコミュニケーション」が、今後の広告業界の流れとなるのかもしれません。