「タイ焼き焼いた(タイヤキヤイタ)」



 これは、よく知られた回文(最初から読んでも最後から読んでも同じ意味になる言葉)です。子供の時に必死になって回文作りに励んだ人もいるでしょう。とても簡単で身近な文章なのに、実はカラクリがある。自分でも作れそうな気がするのに、いざ、ペンを持って考え出すと、これが意外と難しいのです。



結婚し新嫁宵に新香漬け(ケッコンシニイヨメヨイニシンコツケ)」



「お買い得安いと椅子屋くどい顔(オカイドクヤスイトイスヤクドイカオ)」



「品川にいま棲む住い庭がなし(シナガワニイマスムスマイニワガナシ)」



「ママが私にした我儘(ママガワタシニシタワガママ)」

 

 回文作成の難しさを知っている人からすれば、この4作品のレベルの高さに驚くことでしょう。簡単な言葉をひっくり返しただけでなく、きちんと文章として仕上がっているのです。また、ユニークな情景も浮かんでくるといった奥深さも兼ね揃えているのです。



 この素晴らしい回文を作ったのは、コピーライターの土屋耕一さん(1930年~2009年)。土屋さんは、「君のひとみは10000ボルト」「おれ、ゴリラ。おれ、景品。」など、有名なキャッチコピーを残しています。



 そんな土屋さんのお葬式でのエピソードが書籍『土屋耕一のことばの遊び場。』のなかで紹介されています。



 土屋さんが亡くなったのは2009年3月。お寺の住職さんと土屋さんの奥さんが、生前、土屋さんがどのような仕事をしていたかと話していました。コピーライターであり、回文も作っていたと奥さんが伝えると、ついた戒名は「至光院耕董柚居士」。「大地を耕し、蓮の花や柚子の木を育み、努力してこられた、この上ない尊い光に包まれた人」という意味です。



 そして、驚くべきことに「しこういんこうとうこんいうこし」と、最初から読み上げても、最後から読み上げても同じ。粋なお坊さんが、戒名を回文にしてしまったのです。言葉で遊び尽くした土屋さんらしい戒名だといえるでしょう。