現在、映画『プラチナデータ』が公開中ですが、この原作者はいま最も人気のある作家の一人、東野圭吾です。80冊近い著作がありますが、これまで連載から10年以上経っても単行本化されていなかった"幻の一作"がついに4月18日から書店に並ぶことになりました。タイトルは『夢幻花』。全面書き直しの末、ようやくファン待望の一冊が誕生しました。



 主人公は、物理エネルギー工学科で原子力を研究する大学院生・蒲生蒼太と、かつては水泳でオリンピックを目指した大学3年生・秋山梨乃。2人は梨乃の祖父が殺されたことにより出会い、「黄色いアサガオ」の謎を追うことになります。



 この黄色いアサガオが今回の作品の大きなカギを握るのですが、実はこの花、現在では見ることができません。江戸時代の文献には見受けられるのですが、いつの間にか姿を消し、現代のバイオ技術をもってしても再現できない不可思議な存在なのです。理系出身の東野氏らしく、本作にも科学的な話題を各所にちりばめ、物語を形作っています。さらに話が江戸時代までさかのぼることによって、"歴史科学ミステリー"の様相も呈しています。



 行動力のある梨乃と聡明な蒼太の推理。そこに2人とは別方向から事件解決を目指す刑事・早瀬の姿も。最終局面まで謎の残る蒼太の兄や、その他の登場人物が引き起こす事件の数々に、どんな読者も「早く次のページが読みたい!」という気分にさせられるでしょう。寝る間も惜しんで読みたくなる一冊、という形容が言いすぎではないことは、読んだ人間ならわかるはずです。また、作中で若い主人公たちが成長していくのですが、こちらも大事に物語のエッセンスに。作品にすがすがしさと広がりを持たせてくれています。



 科学と自然、過去と未来、相反するようで、つながりのある関係...。著者の「こんなに時間をかけ、考えた作品は他にない」という言葉が、読後にうれしく心に響く、そんな一作です。