本好きの人であれば、「新井見枝香」の名前を見て、ピンと来た人もいるはずだ。

 2014年に、芥川賞、直木賞と同じ日に独断で本を推薦する「新井賞」を始めた人だ。三省堂書店(東京)を経て、現在も都内・日比谷の大型書店に勤務している。

書店員をしている新井見枝香さん
書店員をしている新井見枝香さん

 週刊誌や月刊誌は言うに及ばず、テレビの人気番組、NHKラジオにまで書評を求められ、書籍の帯にコメントを寄稿する。著書は3冊。「カリスマ」書店員であり、名エッセイスト。

 そして昨年2月、ストリッパーの肩書が加わった。

「今が人生の中で一番充実しています。こんな日が来るとは思ってもいなかった」

 ストリップとの出会いは18年6月。心酔する直木賞作家で、大のストリップファンの桜木紫乃さんから、こんなメールが来た。

 見枝香よ、書を捨てて小屋へ行こう。おやつは鰻だ

 “小屋”とはストリップ劇場のこと。誘われるまま足を運んだのが、シアター上野だった。

「衝撃的でした。こんな世界があるのか、と」

 とりわけ印象的だったのが、桜木さんの小説「裸の華」のモデルでもある踊り子の相田樹音さんだ。

「表現力、ストーリー性、キレのいい踊り、とにかく圧倒されました」

 劇場を出てからも興奮は覚めやらず、ランチをしながら桜木さん相手に熱弁を奮った。

 それからストリップ劇場通いが始まり、1年8カ月後に39歳でデビュー。ステージ度胸の良さとクオリティーの高さから「新人とは思えない」と、初舞台を踏んだあわらミュージック劇場(福井)の社長を驚かせた。

新井見枝香さん/シアター上野
新井見枝香さん/シアター上野

「ストリップの良さは、『脱ぐ』というお約束さえ守れば、自由にセルフプロデュースができるところ。劇団やバンドと違い、誰にも気兼ねしなくていいのが魅力です」と新井さん。

 現在、40歳。ステージでは年齢を感じさせないものの、人気のバロメーターの一つ、写真販売に苦戦し、落ち込むこともしばしば。

 それでも、と新井さんは言う。

「楽しいことをやってるからヘコんでばかりいられません。曲、衣装、ダンスが独りよがりにならないよう、お客さんが求める演目作りを心がけていきたい」

 三足のわらじで走り続ける。

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