羅漢堂を出て、今度は大雄殿(本堂)に入る。中央には、手に一輪の花を持つ釈迦如来像。その周りに、釈迦の説法を聞く羅漢たちが並ぶ。関東大震災や大空襲などを経験した東京で、これだけの羅漢像がまとめて残っていることは奇跡と言えるだろう。
佐山住職は10年間のサラリーマン生活を経て、僧侶になった。出版関連の会社にいたが、不規則な生活に心身とも疲れ、30代前半で退職。五百羅漢寺に入った。
佐山住職は、「ドラゴンボール」「北斗の拳」「キン肉マン」「キャプテン翼」といった漫画が大好きだ。お笑いやゲーム、スポーツ観戦も趣味だという。
なかでも、人気ゲーム「ドラゴンクエスト」(ドラクエ)が好きで、参加者と雑談形式の「ドラクエ法話」というイベントを定期的に開催するほど。ゲームのストーリーと仏教の教義をわかりやすくつなげる内容だという。
「ドラクエは、自分の行動によって他者と関われるところが魅力です。シューティングゲームのようにうまい、へたではなく、ロールプレイングゲームなので、誰もが主人公になれるのです。アイテムを選び、どう戦うのかも自分で決めます。自分が思った方向に進めばいいのです。自分次第で相手の反応も違ってくる。仏教に通じるものを感じます」(佐山住職)
寺の入り口には訪れる人へのメッセージが掲げられている。佐山住職が定期的に書き換えている。ある日は、こんなことが記されていた。
生きることは
まわりとのプレゼント交換
苦手なことと、得意なこと
悲しい気持ちと、よりそう心
交換していくうちに
生まれた意味も、生きた証もいつのまにか、手元にある
用意した、人へのプレゼントから、本当の自分も、見つかる
「駆け込み寺という言葉があるように、お寺はもともと思い立った時に誰が来てもよい場所であったはずです。お寺への敷居を低くして、気軽に自由に来ていただける空間作りを目指しています」(同)
《アクセス》
五百羅漢寺 東京都目黒区下目黒3丁目20-11 03・3792・6751 拝観料 一般500円(65歳以上、高校生以上400円)。JR山手線「目黒駅」から徒歩12分。東急目黒線「不動前駅」から徒歩8分。詳しくは五百羅漢寺公式HP(http://rakan.or.jp/)で。
昭和を代表する写真の名手、林忠彦氏(1918~1990)と、代表作に盆栽を被写体にした「FORM」がある大和田良氏。五百羅漢に魅せられ、寺内にこもって羅漢を撮り続けた2人の写真家の特別企画写真展「五百羅漢を巡るふたつの視覚」を、2020年4月29日まで開催中(拝観料が必要)。
<写真> 有安杏果(ありやす・ももか)/1995年3月15日生まれ。歌手、写真家。0歳から芸能活動を始め、CMやドラマ、MVなどに出演多数。2017年3月、日本大学芸術学部写真学科卒業。芸術学部長特別表彰受賞。写真学科奨励賞受賞。09年7月から8年間アイドルグループで活動し、18年1月卒業。19年1月、音楽や写真などを通して表現し伝えていく活動を発表。有安杏果オフィシャルサイトは(https://www.ariyasumomoka.jp/)。「サクライブTour2020」の詳細は(https://www.ariyasumomoka.jp/special/sakulive2020/)
<文>
平野圭祐(ひらの・けいすけ)/1970年、京都市生まれ。毎日新聞社に入社。横浜支局、経済部兼京都支局記者を経て、朝日新聞社入社。大阪本社社会部記者などを経て、大阪企画事業部で「国宝 阿修羅展」「国宝 鳥獣戯画と高山寺」「運慶」などの展覧会を担当。現在、寺社文化財みらいセンター事務局長。著書に「京都水ものがたり―平安京1200年を歩く―」など。