例えばFOXニュースが2016年の大統領選キャンペーン中に行ったトランプ候補へのインタビューで、対抗馬の共和党候補の父親がケネディ元米大統領の暗殺に関わったと根も葉もない中傷発言をしたが、事実検証もせずにそのままテレビで流し続けたという。こうしたメディアにおける「事実と意見の混同」は前回の大統領選で激しさを増すことになる。

 2016年の大統領選中にトランプ候補の支持を強く打ち出した「ブライトバート・ニュース」などの台頭により、白人至上主義、人種差別主義的な発言が、あたかも事実として伝えられるようになった。選挙キャンペーン中にトランプ氏が「メキシコは麻薬や犯罪者、レイプ犯を米国に送り込んでいる」「イスラム教徒は心を病んだ連中」などと人種差別とも捉えられる発言をすると、一部の保守系メディアはそれを垂れ流し続けた。

 ニューヨーク大学でメディア学を教えるA・J・バウワー助教授はネットの発達によってプロのジャーナリストでなくともメディアへの参入が容易になり、様々な保守系メディアが近年になって急増、またフェイスブックなどのSNSを通して彼らの意見や情報がこれまで届きにくかった地方の保守層まで拡散するようになったと語る。

ニューヨーク大学のA・J・バウワー助教授は「ネット、特にSNSにより自分と同意見の人々だけにしか耳を傾けない傾向が強まっている」と語る
ニューヨーク大学のA・J・バウワー助教授は「ネット、特にSNSにより自分と同意見の人々だけにしか耳を傾けない傾向が強まっている」と語る

 そして大量の情報が溢れかえるネット上では、皮肉なことに受け手は自らの意見に合う情報だけを都合よく取捨選択するようになり、保守派の読者・視聴者は特にその傾向が強いと説明する。

「ネット、特にSNSの発達により、自分と同意見の人々だけにしか耳を傾けなくなるという『エコー・チェンバー(反響室)』現象が近年強まっています。だから、自分と違う意見に直面した時にそれを受け入れることができなくなっているのです」とバウワー助教授は語る。

 このネットによる「エコー・チェンバー」現象の影響で、一部のアメリカ人は共和党支持、民主党支持にかかわらず、自分たちの意見にそぐわないニュースは事実ではないと決めつけ、メディア不信はさらに増大している。(ジャーナリスト・新垣謙太郎=在ニューヨーク)

週刊朝日  2019年6月28日号より抜粋