神田神保町の古本屋街で。古本屋めぐりをするようになったのは、大学時代から。とにかくこの人はよく本を読む。原稿も読む。
神田神保町の古本屋街で。古本屋めぐりをするようになったのは、大学時代から。とにかくこの人はよく本を読む。原稿も読む。

 月刊『Hanada』の花田紀凱(かずよし)は、校了の作業に疲れると、神保町の古本屋街をめぐって「平台散歩」をする。

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 過日、その平台散歩につきあった。花田は私が1986年に文藝春秋に入社した時の最初の上司、80歳の今も、ばりばりの現役編集者だ。もう、37年に及ぶつきあいなのだが、この人が古本屋の平台をのぞくという趣味があることを知ったのはつい最近のこと。

 第36回と第37回で、石川県の地元紙「北國(ほっこく)新聞」のことを紹介したが、この「北國新聞」の夕刊には、花田が夕刊フジで週一で連載している「天下の暴論」というコラムが転載されている。そこでこの「平台散歩」のことが書かれてあったのだ。

 花田さんのことを「右翼の人」という偏見でみる人は多いかもしれないが、それはやっぱり偏見だ。1996年に文藝春秋を辞め、朝日新聞に転職したことを覚えている人はもうあまりいないかもしれないが、当初は、朝日で月刊誌の編集長をやる予定だった。が朝日の中での左バネによる反対が強く、急遽女性誌『uno!』の創刊編集長になった。ようは融通無碍(むげ)。与えられたポジションによって、右でも左でも中道でも、とにかく面白い雑誌をつくるというのが、花田流、編集術だと私は思っている。それゆえの批判が多いのも事実。

 その花田さんの幅を支えているのは、圧倒的な読書量なんだなあ、ということを「平台散歩」につきあいながら、ひしひしと感じた。

 神保町の古本屋は、店のなかにある本は、たとえばこの書店は中国関係の古本、美術関係の古本といった具合に、高価なコレクションが棚差しで陳列されている。しかし、店の前の平台は、一冊300円といった安い値段で、古本が無造作につまれている。しかも、この平台の商品はしょっちゅういれかわるのだそうだ。

 そこで、興味がある本があると、ううーんとうなりながら、パラパラとめくり「こんな凄い本が300円なんだよ。でも買っていくと、かみさんに怒られるからなあ」なんて言って元に戻したと思ったらば、また未練ありげに手にとってじっと眺める。

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下山進

下山進

1993年コロンビア大学ジャーナリズム・スクール国際報道上級課程修了。文藝春秋で長くノンフィクションの編集者をつとめた。聖心女子大学現代教養学部非常勤講師。2018年より、慶應義塾大学総合政策学部特別招聘教授として「2050年のメディア」をテーマにした調査型の講座を開講、その調査の成果を翌年『2050年のメディア』(文藝春秋、2019年)として上梓した。著書に『アメリカ・ジャーナリズム』(丸善、1995年)、『勝負の分かれ目』(KADOKAWA、2002年)、『アルツハイマー征服』(KADOKAWA、2021年)、『2050年のジャーナリスト』(毎日新聞出版、2021年)。元上智大新聞学科非常勤講師。

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