作家・編集者の佐山一郎さんさんが評する「今週の一冊」。今回は『サッカー監督の決断と采配 傷だらけの名将たち』(ひぐらしひなつ、エクスナレッジ 1848円・税込み)。

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 セ・パ12球団、2リーグ制の日本野球機構(NPB)と違って、Jリーグには昇降格制度がある。現在はJ1=18、J2=22、J3=20チームの3部制が敷かれ、41都道府県で60人もの監督がしのぎを削っている。

 自動降格や入れ替え戦を伴う昇降格制度は日本サッカーリーグ(JSL)時代の1960年代からのこと。ただし90年代の後半までは情け容赦のない「解任」の二文字を目にすることが少なかった。

 3大タイトルの天皇杯で昨シーズン初優勝したJ2ヴァンフォーレ甲府の場合は、吉田達磨(たつま)監督(48)の退任が内定してからの快挙。18位の甲府が日本最古のトーナメント戦で奇跡の優勝を果たした。その吉田監督も甲府を2018年4月に途中解任されたことがあった。つまり解任の常態化は同時に就任の常態化なのである。こうしたサッカー界ならではの計り知れぬカオスに興味のある人に、本書はうってつけである。

 著者のひぐらしは、これまでにも九州、中でも地元大分トリニータを拠点に監督たちを見つめてきた実力派。歯応えのあるサッカー関連のノンフィクション作品が減った今では、貴重な書き手である。この本では9人の知る人ぞ知る叩き上げ監督の思いと経験を正確にトレースしている。

 本書に登場する9人のうちの田坂和昭、木山隆之(たかし)、片野坂知宏、下平隆宏の4人は51歳。93年のJリーグ開幕時は21歳から22歳だったことになる。

 60代は62歳の小林伸二と65歳の石崎信弘。今はJ3ヴァンラーレ八戸監督を務めるその石崎の項<石の上にも25年>によれば、率いたチーム数はすでにのべ13! 「J1から地域リーグまでの幅広いカテゴリーを網羅し、4度の昇格と2度の降格、3度のシーズン途中での解任を経験」──となれば、本書副題の「傷だらけの名将たち」にも合点がゆくというもの。

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