岸田政権が「原発回帰」に突き進む一方、福島の現状はいまも約3万人が避難生活を強いられるなど、課題が山積している。原発事故で出た汚染土の処理を巡っても、波紋が広がっている。

【写真】高線量の汚泥を入れる容器「HIC」がこちら

 福島県内の除染作業で中間貯蔵施設に集められた「除染土」は、約1336万立方メートル(東京ドーム11個分)に及ぶ。2045年までに福島県外で最終処分することが法律で決まっている。環境省は処分量を減らすため公共工事などに再利用する方針で、その実証試験を首都圏3カ所で行う予定だ。東京の新宿御苑では、10トンの除染土が運び込まれ、花壇を造成。別の土で覆って露出しないようにするという。

 廃炉にした原発から出る金属などの再利用基準は100ベクレル/キログラム以下だが、原発事故で汚染された土壌は8千ベクレル/キログラムまで基準が緩和されている。危機感を抱いた住民らは強く反対している。「新宿御苑への放射能汚染土持ち込みに反対する会」世話人で批評家の平井玄氏が語る。

「都心の人口密集地に汚染土を持ってくるのです。環境省は半減期が30年と短いセシウムのことしか言いませんが、毒性の強いプルトニウムなど他の放射性物質が含まれているのではないかと聞いても、環境省の職員は何も答えません」

 実証試験の次は全国に除染土がバラまかれるだろう。

「福島の人たちは不安な思いをされてきたのですが、薄めた毒を全国に受け入れさせることで『痛みを分かち合う』という人々の思いを利用しようとしている。それも原発新増設に向けた地ならしであるように思えます」

週刊朝日  2023年1月27日号