※写真はイメージです (GettyImages)
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 年金を増やす貴重な手段である「繰り下げ」。豊かな老後生活を送ろうと実行者が増えているが、半面、できそうな人でも二の足を踏む例が多いという。増える年金額には目がいかず、「損得論」にばかりとらわれているというのだ。そんな人に送る「手取り」重視のすすめ──。

【図表】年金繰り下げで手取りが増える? 65歳、70歳で受給した場合の夫婦の手取りを比較

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 社会保険労務士の近藤雅幸さん(66)の趣味は登山とスキー。一年中、月に2~3回は「山」を訪れている。

 付き合っている山仲間には70代や80代の人がゴロゴロいる。山登りの会を企画し、一度に数十人を連れていくこともあるが、そんな会の平均年齢も70歳を超す。常連の最高齢は88歳の男性だ。近藤さんが言う。

「皆すごく元気なんです。全然ボケていない。若い時から山へ行っているから、体力の蓄積ができているんでしょうね」

 山のレジャーは交通費などそれなりにお金がかかる。でも、リッチに自分の楽しみを続けている高齢の仲間たちを見ていると、「老後の生活は、そのようなものだ」と思えてくる。

 老後は余裕を持って生活したい。だから近藤さんは現在、年金を繰り下げ中だ。

「趣味に打ち込もうと思ったらお金が必要です。そんな時にギリギリの生活をしていたのでは、やりたいことができなくなってしまいます。繰り下げで年金額を増やせば、生活の『質』を高められます」

 年金繰り下げは、基本は65歳から始まる受給を遅らせることで年金を増やす方策。1カ月遅らせるごとに0.7%増で、70歳まで5年遅らせれば42%増になる。2022年春からは75歳まで遅らせることができるようになり、仮に10年遅らせると実に84%も年金が増える。

 近藤さんのように、趣味を楽しもうと思ったら確かにお金がいる。何より人生100年時代の「長い老後」を考えると、なおさらお金はあったほうがいい。繰り下げの実践者がもっと増えてもいいはずだが、現実はまだまだだ。

 近藤さんが続ける。

「年金相談をしているとわかります。高齢になっても仕事をしている人から繰り下げの相談をずいぶん受けるようになりましたが、私と同じような考えの人は少なく、たいていの人は『損得論』を口にします。何歳までに累積額でいくらもらえるかを見て、それが損か得かで考えている人が実に多いんです」

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首藤由之

首藤由之

ニュース週刊誌「AERA」編集委員。特定社会保険労務士、ファイナンシャル・プランナー(CFP🄬)。 リタイアメント・プランニングを中心に、年金など主に人生後半期のマネー関連の記事を執筆している。 著書に『「ねんきん定期便」活用法』『「貯まる人」「殖える人」が当たり前のようにやっている16のマネー 習慣』。

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