東海テレビ ゼネラル・プロデューサー
東海テレビ ゼネラル・プロデューサー 阿武野勝彦(左)とドキュメンタリー映画監督 大島新(撮影・横関一浩)

 大作が話題の映画界で、ドキュメンタリー映画も続々と佳作が生まれている。「香川1区」の大島新監督と、「チョコレートな人々」が公開中の東海テレビ・阿武野勝彦プロデューサーにドキュメンタリー映画の今と未来を語り合ってもらった。

【写真】「なぜ君は総理大臣になれないのか」の続編「香川1区」の場面カットはこちら

*  *  *

──阿武野さんと大島さん、おふたりの手掛けられてきた作品に共通するもののひとつが、取材者の存在を明らかにしているところです。

大島(以下、大):私はよく「出たがり」と言われるんですが、実際に声や姿が映りこんでいるかはともかく、取材者の存在は画に投影されるものだと思っています。その点でいえば、阿武野さんが新たに手掛けられた「チョコレートな人々」もそう。この映画、2回観たんですが、2度目にずいぶん印象が変わりました。

阿武野(以下、阿):ほぉう。

大:破格の善良さというか。映っている人たちはもちろん、カメラの後ろにいる人の心の綺麗(きれい)さに圧倒されたんですね。

阿:そうですか。たしかにドキュメンタリーは人の裏をのぞきみる意地のわるい視線も必要とされる。けれども「チョコレートな人々」の鈴木祐司監督は、僕が言うのもなんですが、あきれるほど裏も表もない人なんです。

大:それは観ていて伝わってきました。こういう時代だからこそ、心が澄んだものを観たい。ただ、もしかしたらそこが弱点になるかもしれないと思ったんです。

阿:なるほど。

大:私なりに東海テレビの映画を「サイドA」「サイドB」と分類させてもらうと、「ヤクザと憲法」(2015年)のように、他がまったくやろうとしない(組事務所に長期間密着するなど)強烈な問題作に、作り手として刺激を受けてきました。

 それとは別の方向性にあるものとして、「人生フルーツ」(16年)という結果も含めて桁違いの作品がある。プロデューサーとしての阿武野さんは異なる種類のものをやられてきているわけですけど、意識されていることはあるのですか?

次のページ