作家・長薗安浩さんの「ベスト・レコメンド」。今回は、『たりる生活』(群ようこ、朝日新聞出版 1430円『体はゆく』(伊藤亜紗、文藝春秋 1760円・税込み)を取り上げる。

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 前期高齢者となった群ようこは、このコロナ禍の間に引っ越しをした。老いた愛を見送り、ちらつき始めた「終活」も意識しつつ物を処分し、ひとり暮らしには広すぎる部屋を離れたのだ。その顛末を記した『たりる生活』には、彼女より6歳年下の私も身につまされる実感があふれていた。

 たとえば、部屋探し。シニア可の賃貸物件がいかに少ないか、ここまでとは知らなかった。年齢だけで希望する部屋に辿りつけない現実の厳しさよ。

 物件探しの一方で、物の処分も難航。新しい部屋のスペースを現状の3分の2にすると定めたため、3分の1以上の物を減らす必要があるのだが、これがどうにも進まないのだ。群は友人たちの助言やネット上にある達人たちの至言を参考に作業を続け、最大の難物、本や雑誌と対峙する。目標は7割減。本棚からざっと抜いて3割減、半分目をつぶって断腸の思いで選別しても5割減……詳細に綴られた、本を前にした群の行動と心情を苦笑しながら読んでいた私は、ふと不安になって辺りを見回した。いま自分を囲んでいる数千冊の本を7割処分するとなったら……どうしよう。

 いざ引っ越しの朝を迎えたとき、群が梱包した数は130箱になっていた。そして、転居後も片づけに追われ、「いいじゃないか、前期高齢者なんだから」と自身を慰めつつ、<必要なものすら手放さないと、すっきりとした住まいにはならないのである>と学んでいく。

 群の体験と学習は、読者の教訓となる。だから、彼女が目標どおり<新年を花と観葉植物が活かせる部屋>で迎え、「たりる生活」を実践できているのか、とても気になる。

週刊朝日  2023年1月20日号