小川哲さん
小川哲さん

 2023年の主役は? 週刊朝日が独断と偏見で選んだ人たちの中から、小説家 の小川哲さんに話を聞いた。

【画像】2023年、各ジャンルの“主役”を予想した100人はこちら(全4枚)

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 昨年末、『地図と拳』(集英社)が第168回直木賞候補作となった。同賞にノミネートされるのは、『嘘と正典』(早川書房)に続き2度目。今回連絡を受けたときは、生命保険の契約手続き中だったという。

「前回の経験もあって、電話がかかってきた瞬間に用件は察知しました。でも何の電話か、担当者には言えなくて。『大事な仕事の電話なので』と言って、そっと席を外す感じでした」

 東京大学教養学部を卒業したのち、同大大学院に進み、哲学を学んだ。研究者から作家への進路転換を考えたのは、博士課程に入ってからのこと。

「博士課程へ進んで、研究者のキャリアがようやく見えてきて。今は研究職への就職も大変で、大学の先生になっても会議が多く自由が少ない。そもそも研究者を志したのは『興味のあること、好きなことをやり続けたい』という気持ちからだったので、思いを生かす現実的な選択肢として『小説家』という職業を考えるようになりました」

 2015年、SF小説の新人賞を受賞し、作家デビュー。その後も大学に籍を置きながら塾講師の仕事をしていたが、2作目となる『ゲームの王国』(早川書房)が第31回山本周五郎賞を受賞し、連載依頼が増えたことを機に専業作家となった。

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