人間としてのあり方や生き方を問いかけてきた作家・下重暁子氏の連載「ときめきは前ぶれもなく」。今回は、「同じことをする幸せ」について。

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 お正月三が日は、毎年同じことをする。同じことができているうちは大丈夫というジンクスがある。

 今年もおかげさまで家族、といっても私とつれあいの二人だが、この上なきマンネリの正月を迎えられたことに感謝だ。

 災害や戦争でいやおうなく変わった正月にならないよう、日頃から見張っておかねばならない。

 今年も三が日は、二人して着物を着る。といっても普段着の気楽なものだ。私は仕事で着ることも多いが、つれあいは、お茶会以外着ることはないから新鮮だ。

 男の着物姿が私は好きで、やくざっぽくなるか、書生っぽくなるか、どちらも似合っている。

 お屠蘇は塗りの道具を納戸から出して、お雑煮とともに祝う。正月料理は、とりよせるものと、料理好きのつれあいが年末から作るもの。特に通称シナ料理と呼んでいたという、つれあいの家自慢の香料を利かせた炒めものはなくてはならない。

 年賀状を確かめた後は、初詣に行く。増上寺と氷川神社だ。どちらも車で十分。午後三時頃だが今年は異変があった。増上寺の正門から延々と車の列に人の列! こんなことは初めてだ。夕刻に近づくと空いてくるはずだが……。隣の東京プリンスホテルから裏道で入るが、人の群れは切れない。どうしたことだ。賽銭を投げてお詣りし、お守りを三種類。昨年のものはお焚き上げに預ける。

 西の空が茜色になり、寒くなってきたので、もう一か所の氷川神社は翌日にまわす。二日の午後三時、これがまた今まで見たこともない人の列。長い階段の下まで続いて、神社の男性が交通整理している。こりゃ何じゃ! 毎年人が増える。四、五年前は人も少なく氏子連が太鼓をたたき笛を吹き、獅子舞も出て、その風情を愛していたのに、今では有名神社並み。

 そういえば、誰も行かなかった神社にも列ができ、お守りを売る場所ができて、受け入れる神社仏閣の方が変わってきた。なぜだろう。

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下重暁子

下重暁子

下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中

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