中村米吉(なかむらよねきち)/ 1993年、五代目中村歌六の長男として生まれる。2000年に7歳で初舞台を踏み、11年から本格的に歌舞伎役者の女形として歩み始める。21年、第42回松尾芸能賞新人賞受賞。(撮影/写真映像部・上田泰世)
中村米吉(なかむらよねきち)/ 1993年、五代目中村歌六の長男として生まれる。2000年に7歳で初舞台を踏み、11年から本格的に歌舞伎役者の女形として歩み始める。21年、第42回松尾芸能賞新人賞受賞。(撮影/写真映像部・上田泰世)

 歌舞伎の若手女形として注目を集めている中村米吉さん。20代最後に、初めて歌舞伎以外の舞台に立つという挑戦をする。舞台「オンディーヌ」への思いや、女形として思うことを聞いた。

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 真剣な眼差しで歌舞伎について熱く語ったかと思えば、おっとりとした笑顔を浮かべるなど、表情豊かで茶目っ気たっぷり。中村米吉さんは、見目麗しく、繊細な表現で注目を集めている、伸び盛りの若手歌舞伎俳優だ。

 時代物から世話物まで幅広く活躍する五代目中村歌六さんを父に持ち、播磨屋一門の若手女形として経験を重ねてきたが、「オンディーヌ」で初めて歌舞伎以外の舞台に挑戦することになった。

「お話をいただいた時は驚きましたし、悩みました。父に相談すると、浅利慶太さんのところで演劇の基礎を学んでいたこともあり、作品もよく知っていました。『あなたがやるの?』と笑っていましたけど、『いいんじゃない?』と言われたのは後押しの一つになりました。また、僕が歌舞伎の女形だからこそ、水の精・オンディーヌを演じてほしいと思ってくださったわけで、未知への挑戦をしないのは惜しいと思ってお受けしました」

「オンディーヌ」の稽古は、演じ方をあらかじめ頭にたたき込んでから行う歌舞伎のそれと違い、発見の連続だという。

「歌舞伎は先輩に教わったことをとにかくなぞることが正義。そのなぞること自体が難しいのですが、なぞるうちに自分なりのものが出てくるようになります。でも、『オンディーヌ』では演出の星田良子さんが描くものを目指してすり合わせていく作業。演じるにあたって余白は必要だけど、ただ白いだけじゃだめで、自分なりにクレヨンや色鉛筆など、何でも描ける画材は自分で用意しておかなければいけないな、と考えています」

 米吉さんが舞台衣装姿をインスタグラムで投稿した時、「かわいい!」と大きな反響があった。

「女形なので、男性相手にラブシーンを演じることに抵抗がないのが強みかなと思っていたのですが、相手の胸に顔を埋めるなど、歌舞伎よりも直接的なので恥ずかしい(笑)。でも、歌舞伎では直接抱き合わなくても、気持ちの持っていき方は同じだと気づきました」

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