佐藤蛾次郎(さとうがじろう) 大阪府出身。歯科医の家に生まれ、小学3年で児童劇団に入り演技に目覚めた。映画「男はつらいよ」シリーズで渥美清さん演じる車寅次郎の弟分で葛飾柴又の題経寺の寺男・源吉(源公、源ちゃん)を、1969年の第1作から第50作までほぼ全作演じ続けた。他の出演映画に「罪の声」など。10日午前、東京都世田谷区の自宅浴槽で動かなくなっているのを親族が発見し119番通報、死亡が確認された。享年78。
佐藤蛾次郎(さとうがじろう) 大阪府出身。歯科医の家に生まれ、小学3年で児童劇団に入り演技に目覚めた。映画「男はつらいよ」シリーズで渥美清さん演じる車寅次郎の弟分で葛飾柴又の題経寺の寺男・源吉(源公、源ちゃん)を、1969年の第1作から第50作までほぼ全作演じ続けた。他の出演映画に「罪の声」など。10日午前、東京都世田谷区の自宅浴槽で動かなくなっているのを親族が発見し119番通報、死亡が確認された。享年78。

 東京・銀座。8丁目にある飲食店ビルでカラオケパブ「蛾次ママ」を経営していた。ウイスキー飲み放題でポップコーンがついて1人4千円もしなかった。興が乗ると夜景が見えるステージに立ち、大好きな「望郷じょんから」を歌った。

【写真】控室でひと眠りする渥美清さん

「俺の顔を見るなり、『本物だ!』と驚く客もいるよ」。ニヤリと笑みを浮かべながら話していた姿が懐かしい。

 寅さん映画のポスターが飾られた「蛾次ママ」は、寅さんファンにとっては隠れた「聖地」でもあった。だが一緒に店に出ることもあった妻が2016年に他界。新型コロナの影響で客足も激減し、一昨年店を閉じた。世田谷区内の自宅でひとり暮らし。

 寅さん映画では葛飾柴又の帝釈天で働く源公を演じた。美しいマドンナが柴又に現れると「寅の恋人が来たでえ~」とうわさをまき散らした。

「握りずしにつくワサビみたいな男。いなくていいかもしれないけれど、いないと困る」と佐藤さんは語っていた。だが、映画の原作者でもある山田洋次監督は違った。「渥美清さんが仁王様、その足に踏んづけられている天邪鬼が佐藤蛾次郎さん。このコンビなくして寅さんシリーズは成り立たなかった」

 大阪府高石市で1944年、歯科医師の四男として生まれた。本名・佐藤忠和。小学生のとき、大阪のテレビ局の児童劇団に入り、子役として活躍する。テレビドラマ「神州天馬侠」の役名から「蛾次郎」とした。

 転機は映画「吹けば飛ぶよな男だが」(68年)。オーディションに何と2時間の遅刻。しかも「どんな役をやりたい?」という山田監督の質問に「不良」とだけ答えたそうである。そのふてぶてしさが監督の心を動かしたのだろう。採用となり、希望通り「チンピラ」を演じた。

 だが、いざ撮影に入ったら苦労の連続だった。「なかなかOKが出ない。監督は自然な芝居を要求する。いかにも、というのはダメだった」

 寅さん映画であのモジャモジャ頭がほぼ完成するのは、吉永小百合さんが出演した第9作「柴又慕情」(72年)のころからだ。「簡単な役でいいなあ」とうらやましがる人もいたが、実は相当難しかったにちがいない。

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