津川雅彦
津川雅彦

 2023年のNHK大河ドラマの主役は徳川家康。家康といえば、大河の長い歴史の中で多くの名優たちが演じ、それぞれの時代背景も反映した千差万別のキャラクターを披露してきた。あなたの心に刻まれているのは、どの家康だろうか?

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 大河ドラマの中でさまざまに描かれてきた徳川家康。3月まで本誌で連載された、家康と毛利輝元それぞれの視点から関ケ原の戦いに迫った小説『天下大乱』(朝日新聞出版)の作者である作家の伊東潤さんはこう語る。

「大河ドラマには歴史を伝えていく役割も課されているので、大筋は史実に忠実でなければなりません。キャラクター面でも信長や秀吉、幕末でいえば西郷隆盛、勝海舟ら英雄たちは強烈な個性の持ち主なので、そのイメージを大きくは逸脱できません。一方、家康は後景に一歩引いている人物なので、比較的自由に描きやすい。だから時代ごとの世相や、脚本家やプロデューサー、俳優らの狙いを反映しやすい人物だと言えます」

 家康が登場する初期の作品群の中で大きな足跡を残したのが1973年放送の司馬遼太郎原作作品「国盗り物語」だ。当時中学生だった伊東さんも夢中になり、大河を見てから小説を読む習慣が根付いたという。

「本作は、ディレクターの齊藤曉さんが、『分厚く、幅広く、しかも現代性のあるドラマとして作る』と宣言し、家康の描き方に限らず現代的価値観を反映した作品でした。大河ドラマ人気に火をつけた作品と言っていいのではないでしょうか」

寺尾聰
寺尾聰

「国盗り物語」で家康を演じたのが寺尾聰だった。

「高橋英樹さんが信長で、近藤正臣さんが明智光秀。寺尾さんは脇を固めるべく、抑制された演技で家康を演じています。当時は山岡荘八さんの小説『徳川家康』の影響も大きく、家康が非常に肯定的にとらえられた時代でした。腹に一物あるというよりも、慎重で冷静な人物。寺尾さんは昭和の家康像の基礎を築いたと思います」(伊東さん)

 寺尾はのちに「軍師官兵衛」(2014年)でも家康を演じている。

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