作家・長薗安浩さんの「ベスト・レコメンド」。今回は、『『射精道』(今井伸 光文社新書、968円・税込み)を取り上げる。

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 シャセイ……ドウ?

 書店で思わず二度見した『射精道』。そのタイトルは、性機能と生殖医療の専門医である今井伸の造語だった。今井は新渡戸稲造の『武士道』を考え方の基盤とし、<陰茎を持って生まれ、性生活に陰茎を使う者に伴う行動規範>を説いていた。

 思春期編からはじまり、青年期編、妊活編、中高年編、射精障害克服編と展開する「射精道」はどれも具体的で、該当する読者がすぐにでも実践できるものばかり。たとえば、思春期の第1条には<オナニーを基本とする>、第9条には<3回我慢してから4回目に発射すべし>とある。

 青年期では第5条に<コンドームの使用法を熟知すべし>とあり、7コマの図とともにコンドームのつけ方を詳しく案内する。第15条では<暴力を振るう男はセックスをする資格なし>と警告。中高年の第3条には<過去の栄光にすがるべからず>、第9条には<硬い勃起にこだわるべからず>とあって、私はつい苦笑してしまった。

 各世代の患者と長く向きあってきた今井は、射精についてほとんど教育を受けないまま大人になるこの国の現状に、何度も警鐘を鳴らす。彼が<適切なオナニー>にこだわるのも、<自己流でなんとなく覚えた間違ったオナニーの習慣が原因となって、大人になってから射精障害に悩む>人が多くいるからだ。

 男は勝手に覚えるから、セックスを誘発するから、と置いてきぼりにされてきた射精教育。性教育が遅れていると久しく指摘されてきた日本で、ほぼ放置されてきた男子の一人として私は、この本を思春期に読みたかったと強く思った。文科省よ、どうか中学生に射精教育を!

週刊朝日  2022年12月9日号