アニー・エルノー(ロイター/アフロ)
アニー・エルノー(ロイター/アフロ)

 今年のノーベル文学賞に輝いたフランスの小説家アニー・エルノー(82)。自らの経験をもとに、女性の「性」に焦点をあてた自伝小説を多く発表してきた。12月2日から公開される映画「あのこと」は、傑作と名高い『事件』が原作だ。主演のアナマリア・ヴァルトロメイ(23)に話を聞いた。

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──昨年の第78回ベネチア国際映画祭で最高賞の金獅子賞を受賞した映画「あのこと」。主演のアナマリア・ヴァルトロメイは、エルノーのノーベル文学賞受賞について、何を思ったのだろうか。

 受賞は当然のことだと思いました。彼女はフランスではもちろん有名な方ですが、世界中で高く評価され、特に女性の方たちに読まれています。彼女が女性読者から評価されているのは、彼女の小説が女性を描くにあたって、とても的確で正確に現実を描いているからだと思うんです。

 そして、女性の、ちょっとタブーのように思われていることも堂々と語ります。例えば、女性が持っている欲望、性欲なども語りますし、自分の体をきちんと自分で管理している女性の姿、女性たちの自由も的確に描いています。私たち若い女性にとって本当に胸に迫ってくるものがありますし、とても参考になります。私はエルノーさんを読み続けると思いますし、一生彼女から離れられないと思います。

──映画「あのこと」の原作『事件』はエルノーの中絶体験を描いた小説。中絶が法律で禁止されていた1960年代のフランスを舞台に、望まぬ妊娠をした大学生の主人公アンヌが12週間、たった一人で難局を乗り切ろうと闘う姿が描かれる。

 アンヌは本当に勇気があります。違法中絶をする(施術者の)女性のところへ行くだけでもすごく勇気のいること。相手はどんな人かもわからないし、ひょっとしたら命を落とすかもしれない。私は60年代のアンヌのような経験をした女性の勇気と勇敢さを考えます。

 今は当時の違法中絶のことを話す女性がいたり証言もあったりするので、なんとなくこういうものだろうかと私たちは知っているわけですが、63年のアンヌの周りには見本になるような人も全くいません。そんな中で、社会が選択の余地を禁じるそういうものに私は刃向かうんだと、違法中絶の場所に行くのですからその勇気は本当にすごいなと思います。

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