『silent』(フジテレビ・制作著作)より。第一話のラスト、紬(川口春奈)は8年前消息を絶った想が、聴覚を失っていたことを知る。
『silent』(フジテレビ・制作著作)より。第一話のラスト、紬(川口春奈)は8年前消息を絶った想が、聴覚を失っていたことを知る。

 上智大学の学生たちが、興奮して話しているので、そのドラマの存在を知った。

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『silent(サイレント)』。

 フジテレビ系列で、木曜10時からのドラマなのだが、上智の学生たちは、このドラマをテレビで見ているわけではない。TVerという民放各局と広告代理店が出資をしあってつくったポータルのサイトで見ている。PCで、スマホで、あるいは地上波は入らないチューナーレスTVで。

 TVerは、2015年にそのサービスを始めている。もともとネット上にドラマなどを違法にアップロードすることに対抗して、たとえばドラマであれば、見逃し配信として、地上波で放送後一週間は、その回を見ることができるというたてつけだった。

 アーカイブしている期間を一週間にくぎったのは、ネットで見逃したものを見て、それを地上波に戻すという戦略からだった。

 が、『silent』の話題のなりかたを見ていると、TVerでこの番組のことを知った視聴者は、地上波には帰らず、ネット上で番組を見続けているようだ。

 この番組、地上波の視聴率は、6・4パーセント(第1話)、6・9パーセント(第2話)と決してたかくはない。しかし、ネットでまず火がついた。公式ツイッターのフォロワー数が50万を超えて、ツイッターで番組のことをつぶやく回数のランキングが一位になる。

 上智の教室でも、話題になっていたのは、普通は一週間で消える過去放送分が、『silent』にかぎっては、1話から3話まではずっとアーカイブされて見れるようになっていること。しかも、エピソードゼロとして、『紬と想と湊斗、8年前のある出来事』という前日談がTVer オリジナルコンテンツで見ることができるようになっていた。

 TVerでの再生回数は、第1話では443万回再生、第2話では489万回再生としり上がりに上がっていき、10月27日に配信された第4話では、配信後一週間で582万再生と、過去に配信された全民放ドラマの配信回数を大幅に更新することになった。

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下山進

下山進

1993年コロンビア大学ジャーナリズム・スクール国際報道上級課程修了。文藝春秋で長くノンフィクションの編集者をつとめた。聖心女子大学現代教養学部非常勤講師。2018年より、慶應義塾大学総合政策学部特別招聘教授として「2050年のメディア」をテーマにした調査型の講座を開講、その調査の成果を翌年『2050年のメディア』(文藝春秋、2019年)として上梓した。著書に『アメリカ・ジャーナリズム』(丸善、1995年)、『勝負の分かれ目』(KADOKAWA、2002年)、『アルツハイマー征服』(KADOKAWA、2021年)、『2050年のジャーナリスト』(毎日新聞出版、2021年)。元上智大新聞学科非常勤講師。

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