春風亭一之輔・落語家
春風亭一之輔・落語家

 落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「休養」。

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 年に3回は休みをとるようにしている。4月と8月と12月。とはいえ、長くて3~4日だ。温泉でも行ってボンヤリと過ごす。この「ボンヤリ」が難しい。いっさい仕事のことは考えたくないのに、マクラやコラムのネタはないか?と探してる自分。悔しい。私はゆっくり休みたいのだ。これもみな、週刊朝日のせい。

 今年の夏は洞爺湖へ行ったな。ホテルの朝食バイキングにおむすびコーナーがあった。小柄なお婆さん(佐々木すみ江さん似)がその場でおむすびをこさえてくれる。具は鮭、梅、昆布というオーソドックスなもの。これが美味かった。家族にも大好評。おむすびは大行列でいくら丼コーナーが閑古鳥。北海道なのに。塩むすびが一番美味い。恐るべし、婆ぁの塩おむすび。「やっぱりおむすびはすみ江だな」なんて感心してたら、翌朝の握り手は中井貴一さん似のおじさん。「(仲手川)良雄((C)ふぞろいの林檎たち)じゃ、顔じゃねえな」なんて言ってたら、これも美味。匠の技が受け継がれている。あとからすみ江が合流。二人を比べると、親子(妄想)で同じリズムで握っている。米粒の間の空気の入り方が絶妙なのだろう(妄想)。ちなみにいくら丼コーナーのおじさんは石井均さん似だった。柳沢慎吾の実家のラーメン屋の父親役(これまた『ふぞろい~』より)。

 近くの「昭和新山牧場」へ。ヒグマがいるらしいが、その日はお客が全く居なかった。「客が餌になる『注文の多い料理店』システム」か? 門をくぐると、大きな穴ぼこ。見下ろすと、2メートル超はあるヒグマたちがノソノソしている。まさに熊牧場。看板に偽り無しだ。「クマクッキー100円」とあった。「投げるとクマさんが可愛く食べるよ」的な看板。早速購入。クッキーをかかげると、クマが立ち上がり「おいでおいで」している! 放る。パクッ!! また「おいでおいで」……可愛いやないかい! 手を上から「おいでおいで」するクマと下から煽るように「おいでおいで」するクマの二通り。クッキーに釣られてノリノリのクマたち。さながら私がDJ、クマはクラブに集う若者たち。クッキーにここまでするか!?というサービス精神。「目が笑ってない」と長男が呟いた。当たり前だ、クマの目が笑うか。だがよく見ると、たしかに一切感情の無い目。こわ。「落ちたらクッキーより私たちを食べるよね」と、家内が余計なことを言う。当たり前だ、腹に溜まるものを食べたいだろう。クマだもの。

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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