辞表を提出した山際大志郎氏(10月24日)
辞表を提出した山際大志郎氏(10月24日)

 もっとも、過去にも優柔不断や思い込みの強い首相は少なくなかった。それでも官房長官などの側近に剛腕や沈着冷静なタイプの政治家を配し、首相官邸のパワーを強めたケースがある。第二の理由として、岸田政権にはそうした側近の支援態勢が弱い点があげられる。

 例えば、小渕恵三元首相は「人柄の小渕」を自任して、円満な政権運営をアピールしていたが、官房長官に剛腕の野中広務、青木幹雄両氏を起用。閣僚の更迭などを両官房長官が取り仕切った。小泉純一郎元首相は福田康夫氏、安倍氏は菅義偉氏というそれぞれ堅実、剛腕な官房長官に支えられた。

 岸田政権の松野博一官房長官は円満な人柄で、霞が関の官僚からは手腕が評価されているが、岸田首相とは異なる派閥(安倍派)に所属していることもあり、首相の意向を先読みして失言した閣僚の首を切るという力技はできていない。茂木敏充幹事長は「ポスト岸田」を意識し始めて、麻生氏ら党内有力者の意向に反することには踏み込まなくなっている。

 岸田政権には、事務次官を経験した嶋田隆首席秘書官(経済産業省)、秋葉剛男国家安全保障局長(外務省)ら霞が関のエリート官僚が集っている。外交や経済の政策づくりは素早いものの、閣僚更迭などの政局には弱い。体を張って首相を守る政治家が官邸にいないと政権はもろい。そのことは過去のいくつもの政局が物語っている。

 第三に自民党の人材枯渇が岸田政権に影を落としている点だ。首相が「決められない」なら、自民党の幹事長や政調会長が政局や政策づくりをリードしていく場面は、これまでもたびたびあった。海部俊樹首相の時は小沢一郎幹事長、橋本龍太郎首相の時は加藤紘一幹事長や山崎拓政調会長らが典型的だ。

 岸田政権では、茂木幹事長が前面に出て政局を切り盛りする場面は見られず、萩生田光一政調会長は旧統一教会との関係が指摘され、政策課題で主導権を取れていない。野党との折衝に当たる高木毅国会対策委員長も、立憲民主党の安住淳国対委員長に押し込まれて国会日程がスムーズに設定できていない。

次のページ