作家・コラムニスト、亀和田武さんが数ある雑誌の中から気になる一冊を取り上げる「マガジンの虎」。今回は「宝塚GRAPH」。

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 禁断の園に足を踏み入れたのかな。宝塚の月組公演「グレート・ギャツビー」を観て、その世界にすっかり魅了された。

 夢のような舞台を思いだしながら、「宝塚GRAPH」(宝塚クリエイティブアーツ)11月号と公演パンフを眺める。ギャツビーを演じた男役トップの月城かなとがクールで格好よくてね。顔はシュッとしたハンサムで、身ごなしはあくまでシャープ、魂を奪われてしまった。

「宝塚GRAPH」には、ギャツビーの“永遠の恋人”デイジー(海乃美月)の夫であるトムを演じた鳳月杏と月城の対談があった。月城はギャツビーを、「五年間裏街道を生きてきたけど、その先に絶対に果たしたいデイジー(海乃)への想いがあるから、今の状況を悲観しすぎていなくて」と評する。「自己犠牲の人ではなく、ただデイジーのためだけに100%生きた人。だからそれを苦労というふうに見せてはいけないと思うんですよね」という言葉も。

 月城のそんなギャツビー解釈により、切ないけれど湿度過多にならない、クールなギャツビーを目にすることが出来たんだな。舞台の楽しさを2人で語るくだりも好き。

「男役の群舞は、格好良いですよね」と月城が振ると「格好良いよね~」と鳳月。「でもジャケットが重すぎて、振り回すと腕が取れそう(笑)」「飾りが沢山ついているからね。筋肉ついちゃう(笑)」

 実は30年前に宝塚は2回観ている。杜けあき退団公演の「忠臣蔵」と、安寿ミラ「心の旅路」だ。このときは(不思議な世界だなあ)と思っただけ。でもその数年後から、私は歌舞伎にハマった。男だけで演じる芝居の倒錯美に首まで浸かった経験あればこそ、月城かなとがトップの月組の芝居を素直にたっぷり堪能できたのだと思う。

週刊朝日  2022年11月25日号