ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「小雪さん」について。

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『小雪、黒柳徹子を前に足組みトーク。「感じ悪い」の声も』的なネットニュースを見ました。ここまで来るともはや他人の粗をシラミ潰しに探しては「ほれ。叩け! 叩け!」とけしかけているとしか思えません。

 子供の頃、何でもかんでも先生に言いつけたり、帰りの会で「今日、〇〇君が廊下を走っていました。良くないと思います」などとドヤ顔で正義漢ぶっては満足そうにしている奴がいましたが、今やネットニュースの体質はどんどん「帰りの会化」しています。要は、他人を叩いたり苛めたりすれば「金になる」という方程式の下で、喜々として仕事をしている奴らが溢れているということ。しかも今は、このような「炎上案件提議」をすべて「ネット民が言っていること」と責任転嫁して、「あくまで私たちはネット情報を伝達しているだけです」的なスタンスを取っているわけで、実に質が悪い。そして、それをこうしてネタにしている私のような小判鮫も含め、最低なスパイラルだなと気が滅入るばかり。

 女優がテレビで足を組んで何が悪いのでしょうか。そもそも「歴史ある『徹子の部屋』に出る時は、誰しも正しい姿勢で背筋を伸ばすものだ」「黒柳徹子さんは目上の人なのだから、足を組むのは無礼だ」という決めつけは、いったいどこの誰が決めたのか。今でこそソーシャルディスタンスを取った上で、シングルチェアに座っての一問一答的な対談番組になっていますが、かつての『徹子の部屋』は、黒柳さんも若かったこともあり、もっと砕けた雰囲気の番組でした。L字型に配置されたソファで、徹子さんも足を組んだり肘を突いて話し込む場面も少なくなく、時には煙草を吸いながら出演するゲストもいました。

 もちろんこれだけの長寿番組、かつ日本屈指のステータスを誇るテレビ番組に成長していく過程で、出る側のハードルがどんどん高くなっていったのも事実です。私も、初めて出演した際には面接試験に臨むような緊張感に包まれ、おいそれと姿勢を崩せなかった記憶があります。しかしそれは、『徹子の部屋』に完全にのみ込まれてしまった私自身の小ささが原因です。そして、いつしか視聴者側も『徹子の部屋』を、「日本でいちばんお行儀良くするべき番組」と捉えるようになっていったのかもしれません。

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ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

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