浅野和之(あさのかずゆき)/ 1954年生まれ。東京都出身。安部公房スタジオを経て、87年に夢の遊眠社に入団。2005年の「12人の優しい日本人」などの演技で、紀伊國屋演劇賞個人賞、読売演劇大賞最優秀賞を受賞。11年にも「叔母との旅」の演技で、読売演劇大賞最優秀賞を受賞。14年から、スーパー歌舞伎IIシリーズに3作品連続で出演。(撮影/張溢文)
浅野和之(あさのかずゆき)/ 1954年生まれ。東京都出身。安部公房スタジオを経て、87年に夢の遊眠社に入団。2005年の「12人の優しい日本人」などの演技で、紀伊國屋演劇賞個人賞、読売演劇大賞最優秀賞を受賞。11年にも「叔母との旅」の演技で、読売演劇大賞最優秀賞を受賞。14年から、スーパー歌舞伎IIシリーズに3作品連続で出演。(撮影/張溢文)

 飄々とした役も重厚な役もハマる名バイプレーヤー浅野和之さんも、20年前までは、俳優としての生活は不安定。三谷幸喜さんとの出会いで役者人生が一変した。この秋は、その三谷作品の原点に挑む。

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 話題沸騰の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で、源頼朝の命を狙う伊東祐親役を演じるなど、浅野和之さんといえば“三谷幸喜作品の常連”と呼ばれるようになって久しい。浅野さんが初めて三谷作品に参加したのは1993年。織田裕二さんが冷徹な医師を演じたドラマ「振り返れば奴がいる」だった。

「正直、当時の私は、三谷幸喜さんの名前をほとんど知らないような状態でした。20代前半からずっと演劇漬けで、人の芝居を見る時間もなければ、家でテレビドラマすら見る時間もなかった時期です。『振り返れば奴がいる』も、たまーにいただくテレビの役の一つみたいな感じで、レントゲン技師役として、出番としては2回ぐらい。西村雅彦(現・まさ彦)くんが医師役で出演していて、スタジオの隅で、すごく親切に僕のセリフ合わせに付き合ってくれた記憶があります。そこで初めて、彼が東京サンシャインボーイズという劇団に所属していることを知ったぐらいです」

 三谷さんが主宰する東京サンシャインボーイズは、94年に30年間の充電期間に突入。浅野さんは、相変わらず舞台をメインにして、ドラマなど映像の仕事は話が来たらやるというようなペースのまま40代を迎えた。

「いい年して、俳優の稼ぎとしては、いつまでも不安定でしたね。事務所の社長が私のことを心配して、『立ち食いうどん屋をやったらいいんじゃないか』とか、『いや、立ち飲み屋のほうが』なんて、いろいろ助言してくれたぐらい(笑)。そうしたら、40も半ばを過ぎた頃に、たまたま三谷さんから、舞台出演の依頼があったんです」

 劇中歌を井上陽水さんが担当した舞台「You Are The Top ~今宵の君~」は三谷さん書き下ろしの3人芝居だったが、そのキャストの一人が初日直前に急病で降板することになってしまった。慌てた三谷さんが、タレント名鑑の「あ」の欄から、代役を務められそうな俳優を探していったというエピソードは、三谷さんのエッセーでも披露されている。

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