東海道五十三次(行書東海道)四十五 石薬師(掲載した浮世絵の所蔵、取材協力=川崎浮世絵ギャラリー)
東海道五十三次(行書東海道)四十五 石薬師(掲載した浮世絵の所蔵、取材協力=川崎浮世絵ギャラリー)

 コロナも収まりつつある中、リアル美術館へ出かけたくなる季節です。日本が世界に誇る浮世絵の鑑賞術を、時代小説『広重ぶるう』の著者である作家・梶よう子さんに聞きました。題材は誰もが一度は見たことがある歌川広重の「東海道五拾三次」です。

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──浮世絵を鑑賞する際、どこに注目するとよいのでしょう。

 浮世絵は今でこそ高額で取引されていますが、元は大量に印刷された、庶民が容易に入手できるものでした。描かれているのは庶民が喜ぶ題材がほとんどです。歌川広重の行書・隷書版「東海道」を例に見てみましょう。まず人物の表情が生き生きとしていて親しみやすい。おいしいものを食べてうれしそうだったり、凧を揚げて喜んでいたり。他にも坂道を上る人はちょっとくたびれていて、逆に坂を下っていく人は余裕のある顔をしている。名所絵は、風景だけに焦点が集まりがちですが、広重の絵は、ぜひ人々の姿、表情にも注目してほしい。昔も今も、同じようなことに感動して笑って泣いていたことがわかる、物語があります。浮世絵は、それこそ現在の週刊誌に近いものだったのではないでしょうか。江戸時代の人が何が好きで、何を楽しんでいたのかが伝わってきます。

──江戸には名所以外にこんな場所があったのかと、驚く作品もあります。

 広重は江戸の風景を1千点以上描いています。それもいわゆる両国や日本橋などの名所だけではなく、そこらにある川べりや道端でも、自分がいいと思う景色をすぐに描いてしまう。

──名所絵で広重は人気を博しました。

 今、コロナでなかなか旅行に行けませんが、江戸時代の人にとって旅はそれこそ一生に一度のものでした。そこで絵師が代わりにというか、自分が旅先で見てきたものを描き、江戸の庶民に見せたことが支持されたわけです。広重が東海道を描いたころは、旅ブームも起きていました。十返舎一九の「東海道中膝栗毛」が流行の火付け役でした。

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