ライター・永江朗さんの「ベスト・レコメンド」。今回は、『格差の起源』(オデッド・ガロー著 柴田裕之監訳 森内薫訳、NHK出版 2530円・税込み)を取り上げる。

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 人類史にはふたつの大きな謎がある。第1の謎は、生活の質の向上スピードについての謎。それまではゆっくりだったのが、200年ほど前から加速度的に急上昇したのはなぜか。第2の謎は、この成長に地域差、つまり格差があるのはなぜか。ふたつの謎を一気に解き明かそうというのがオデッド・ガローの『格差の起源』である。

 長いあいだ、人類は繁栄と衰退の繰り返しだった。技術が進歩して生活が向上すると、こんどは人口が増えすぎて衰退してしまう。古代文明が永続しなかったのはそのためだ。

 ところが産業革命のころ様相が変わる。生活が向上すると、親たちは資源を子供の養育と教育に回すようになった。子供の死亡率が下がり、出産数は抑えられ、平均寿命も延びた。労働者の質が高まり、ますます成長するようになったのだという。

 もうひとつの謎、本書のタイトルにもなっている格差はどうか。なぜ世界には豊かな地域と貧しい地域があるのか。第1の謎を解くために人類の誕生から現代までを検討したガローは、今度は現代から過去へと遡っていく。そして、ついには6万~9万年前にホモ・サピエンスがアフリカ大陸から世界中に移動していくところにまで。

 ガローによると<人類がアフリカから遠く離れるほど、社会の文化や言語、行動、身体の多様性は低くなった>。多様性の度合いがそのときどきの繁栄に影響を与える。また、地理的な要因にも左右される。

 あまりにもみごとな理論で、マジックを見たような気持ちになる。これが100%正しいと言い切る自信はぼくにはない。でも、教育への投資が重要だということはよく分かった。

週刊朝日  2022年11月4日号