西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。老化に身を任せながら、よりよく老いる「ナイス・エイジング」を説く。今回のテーマは「居酒屋の喜び」。

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【ときめき】ポイント

(1)居酒屋が大好きで、これまで常にかたわらにあった

(2)アットホームな雰囲気といっても家と居酒屋は違う

(3)居酒屋という場に身をおくと、ときめきが生まれる

 居酒屋が大好きです。大学に入って下宿するようになってから、86歳の今にいたるまで、なじみの居酒屋さんが1軒か2軒、常にかたわらにありました。

 私のイメージでは居酒屋とは、あまり大きくない店で、飲み物とおつまみは比較的安くておいしい。そして何よりも雰囲気はあくまでアットホーム。つまりわが家にいるようにくつろげる場所なのです。

 まず、思い出すのは20歳代後半の大学病院医局時代に通いはじめた池袋のお店。いたって小さな店でした。1階は入るとすぐ左にレジ、その先に5~6人規模のカウンター。2階は板の間に4人掛けのテーブルが4卓。3階は宴会ができる10畳ほどの畳の部屋。

 カウンターの中ではご主人が調理に余念がなく、奥には美人のお女将さんと手伝いの女性が控えています。私はいつも、飲み仲間の同僚とともにカウンターに陣取り、焼酎のロックかお湯割りでスタートです。おつまみには刺し身と焼き鳥。どちらも非常においしかった。お店の人たちの動きはきびきびして気持ちがいいのです。この店とは、ご主人が亡くなり、あとを継いだ息子さんが店を閉じるまで、30年以上のお付き合いでした。

 現在も通っている川越市内のお店は、もう40年になります。食事処と銘打っていますが、内容はまさに居酒屋さん。私の最近の献立は、前菜のあと、刺し身の盛り合わせと湯豆腐です。この湯豆腐が天下一品なのです。昆布の出し汁が素晴らしい。豆腐は6個入っていて、それを食べ終わると、鍋には正方形の昆布と出し汁が残ります。これを残さずに、全部飲みほすのが楽しみなのです。

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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