写真はイメージ(あんしん解体業者認定協会提供)
写真はイメージ(あんしん解体業者認定協会提供)

 ずっと気がかり、でも具体的な一歩がなかなか踏み出せない。多くの人が悩んでいるのが「実家の相続」ではないだろうか。ある日突然に対応を迫られる事態は避けたい。普段それほど身近でない解体工事にかかる費用や損得を調べてみた。

【図表】解体工事の一般的な流れと注意点はこちら

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 東京23区内に住む70代の女性は、都内の別の区にある夫の実家を解体することに決めた。もともと夫の両親が住んでいたものの、いずれも亡くなり、今は空き家だ。夫とも数年前に死に別れ、その家屋は女性と40代の娘の2人の共同名義で相続していた。女性は言う。

「敷地は借地で、誰も住んでいないのに、地主さんに地代を払い続けてきました。私も子どもも、生活に余裕があるわけではありません。そこで地主さんと相談し、借地権を地主さんに買い戻してもらうことにしました」

 ただし、借地権を買い取ってもらうには敷地を更地に戻さねばならない。「これまで家の解体の経験はありません。何から手をつけたらよいか戸惑いました」

 この女性のケースはひとごとではない。総務省の住宅・土地統計調査によると、空き家は2018年時点で約849万戸と、30年前の2倍超になった。住宅総数に占める割合(空き家率)は13.6%で、いまや7戸に1戸が空き家の状況だ。

 少子高齢化によって、“家余り”の状態はさらに進むとみられている。野村総合研究所は、11年後の33年に全国の空き家は実に2146万戸に上り、空き家率は30.2%に達すると予測する。空き家についての相談を受けているNPO法人「空家・空地管理センター」(埼玉県所沢市)理事の伊藤雅一さんは言う。

「空き家になる原因は様々で、それぞれが根深い事情を抱えている。そこで相談者には、最初にその家を持ち続けたいか、それとも重荷となりそうかどうかを尋ねます」

 空き家を持ち続けるのは、少なからず負担がかかる。室内の換気や掃除、草刈り、雨どいや畳の修理といった管理をきちんとしないと、家屋は傷みやすくなる。放っておくと動物や知らない人が勝手に住んだり、火の不始末で火事になったりする防犯上のリスクもある。

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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