ライター・永江朗さんの「ベスト・レコメンド」。今回は、『ほんとうの定年後』(坂本貴志 講談社現代新書 1012円・税込み)を取り上げる。

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 還暦を過ぎても働くことがあたりまえになった。ぼくのまわりでも雇用延長や再就職して働き続ける人が多い。ぼく自身、64歳のいまもこうして原稿を書いている。でも、みんなどのくらい働いてどのくらい稼いでいるんだろう。仕事を楽しんでいる? それとも不本意ながら生活のために?

 坂本貴志『ほんとうの定年後』は、60歳以降の実態を報告する本である。「そうだったのか!」と驚いたり、「やっぱりな」と再確認したりすることが多い。

 第1部は定年後の仕事について、さまざまな統計データやアンケートから「ほんとう」の姿を浮かび上がらせる。たとえば70歳男性の就業率は45.7%、女性は29.4%(2020年)。70歳男性の約半数、女性の3割は働いているのだ。もちろん、60歳、65歳の就業率はもっと高い。

 定年後の収入は減る。65~69歳の年収の中央値は180万円。50代なかばの半分以下だ。半減かぁ、やっていけるのかな……と思ったら、家計支出も半分近くまで減る。教育費がかからなくなるのが大きいらしい。住宅ローンの返済も終わっている。年金もあるので、なんとかなるようだ。もちろん、あくまで平均の話で、人それぞれ事情は違うだろう。

 第2部は定年後も働く7人の実例紹介。興味深いのは、皆さんやりがい・生きがいを感じながら働いているということ。ビジネスのスケールでいうと現役時代に比べて小さなものだし、稼ぐ金額もわずかだけど、誰かの役に立っているということが実感できる。定年後は、そう暗くない。「毎日が日曜日」とか「濡れ落ち葉」なんてもはや死語だ(と思いたい)。

週刊朝日  2022年10月14・21日合併号