女優・作家の中江有里さんが評する『今週の一冊』。今回は『キッズ・アー・オールライト』(丸山正樹、朝日新聞出版 1760円・税込み)です。

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 大人は子を守るもの──その前提に立てば虐待される子やヤングケアラーは存在しないはず。

 しかし近年は子供の人権を損なう事例が多く、社会問題となっている。世の中は性善説では成り立たない。

 本書には様々な問題を抱えた子供の事情が描かれるが、その子供を庇護する大人、逆に追い詰める大人たちの物語でもある。

 子を庇護する側の河原はNPO法人「子供の家」の代表。子供を守るためには子供たちの声なき声を聞き取っていくしかない。ある日ネットに書き込まれたつぶやきが気になり、発信元のヤングケアラーと思しき子の行方を追い始める。

 行き場のないストリートチルドレンの元締め・シバリは、「ガイジン」と呼ばれて周囲から差別される日系ブラジル人の少年ダヴィと知り合う。孤立するダヴィを救うために日系ブラジル人のグループと関わっていく。

 一方、少女の「パパ活」(売春)を仕切る半グレ集団、身寄りのない日系ブラジル人を犯罪に利用しようとする輩、老母の世話を娘に担わせる両親……彼らは生きるために子供を犠牲にする。

 特にヤングケアラーの少女・真澄の声が印象深い。彼女は老いた祖母の世話をすることが自分の役割だと信じている。大好きな祖母を放っておけない真澄の優しさ、健気さは嘘ではない。周囲に祖母のケアを強制されているわけではないがそうせざるを得ない状態に追い込まれていることに無自覚だ。

 子供にとって安寧の場所であるはずの「家庭」は、同時に「しつけ」という名目の暴力、虐待などが起こる場所でもある。それらは外からは見えにくく、エスカレートしがちだ。子供が抱える問題は暴力やネグレクトだけでない。大人が担うはずの家事や介護を担う真澄は閉じられた「家庭」の被害者といえる。

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