来日した皇太子時代のチャールズ新国王とカミラ新王妃をもてなす天皇、皇后両陛下(2008年10月)(c)JONES IAN/POOL/GAMMA/Eyedea Presse/AFLO
来日した皇太子時代のチャールズ新国王とカミラ新王妃をもてなす天皇、皇后両陛下(2008年10月)(c)JONES IAN/POOL/GAMMA/Eyedea Presse/AFLO

 だから初の外国訪問が英国で、そこはおふたりともにゆかりの地だったから、楽しみにしていた人は多かったはずだ。コロナ禍で実現できず、おふたりも残念だったと想像する。それが、エリザベス女王の死という思わぬきっかけで実現した。

 最初に訪問が報じられたのは、訃報の2日後。「天皇陛下、英女王国葬参列へ調整」という朝日新聞9月10日付夕刊には、天皇が外国王室の葬儀に参列するのは異例だという記述があり、こう続いていた。「関係者によると、皇后さまは体調を考慮した上で、参列を検討するという」

「適応障害」という病を得て以来、雅子さまの予定公表には必ず添えられる一文だ。結果的に欠席となることもあったが、今回は心配無用だった。

 17日の出発当日、テレビ各局が皇居・御所を出発する両陛下と見送る愛子さまの様子を写していた。車寄せに3人が並び、車を待つ間、何やら話をしていた。小さく頷いたり、顔を見合わせたり。雅子さまがグレー、陛下と愛子さまは黒という服装だったけれど、包む気配はふんわりと軽かった。

 おふたりは車に乗り込むと、愛子さまに小さく手を振った。深く礼をした愛子さまは、走り去る車に向かって手を振った。愛子さまの動く姿を見たのは、3月の記者会見以来だった。あの時より、また少し大人っぽくなったのでは、などと思う。

 風が吹いたと感じた。閉ざされていた空間を開く風。少し遠くなっていた天皇ご一家と国民の距離が、再び近くなる。そんな予感を連れてくる風。「見える」は大切だ。

 冒頭には「聞こえもした」と書いた。聞こえたのは、ロンドン到着後のこと。19日、両陛下は記帳をした。AP通信が20日、その映像を配信した。素晴らしく貴重な記帳の映像だった。再現する。

 女王の写真と白いバラに挟まれ、記帳用の台帳が置かれた部屋に両陛下が入ってきて、ページをめくる。「メッセージが」という陛下の声。「そうね」という雅子さまの声。はっきりではないが、確かに聞こえる。

次のページ