レスキューキッチンカーと中村詩織さん
レスキューキッチンカーと中村詩織さん

 台風14号が列島を襲い、避難所で眠れぬ夜を過ごした人もいただろう。大地震に見舞われれば、誰もが当事者になりうる。避難生活が長引くほど、被災者を苦しめるのが食の問題だ。配給されるパンやおにぎりもありがたいけれど、温かい食事もほしい……。そんな切なる要望に応えるためにできたのが、レスキューキッチンカーだ。

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「日本の災害現場では、食の問題が後回しにされています」

 そう語るのは、一般社団法人「日本食育HEDカレッジ」の代表理事を務める中村詩織さん。長年、食育の普及に取り組む傍ら、被災地のボランティア活動にも携わってきた。そんな彼女が考案したレスキューキッチンカーは、被災者に温かい食事を届けるため、調理設備を整えた車両だ。

車体はホワイトボードにもなる
車体はホワイトボードにもなる

 車両の詳細は後述するとして、まずは開発の経緯から振り返ろう。

 中村さんは2016年に起きた本地震のボランティアとして、現地に赴いた。そこで目の当たりにしたのが、被災者に対する「食の配慮」が行き届かない現状だった。

 全国から食料が寄せられたが、人手不足や交通網が寸断されたため、速やかに避難所に配られず、集積場所で腐ったまま放置されていた。なんとか避難所に届いても、配給されるのは、おにぎりや乾パンなど炭水化物ばかり。ビタミンやたんぱく質が決定的に不足し、体調を崩す人もいた。しかも、食の知識に乏しい人が炊き出ししたせいか、食中毒が起きたこともあったという。

「災害時の食のリーダー」がいなければ、せっかくの善意もムダになってしまう……。そう考えた中村さんは、世界各地の状況を調査した。なかでもイタリアの対策に目から鱗が落ちたという。

「イタリアでは各地にキッチンカーが備えられ、有償ボランティアが定期的に災害時の訓練を行っています。いざ災害が起きたときは、ボランティアを乗せたキッチンカーが被災地に入り、料理を提供する。このことを知り、日本でもキッチンカーを利用したらいいのではと考えました」

 中村さんはクラウドファンディングで資金を募り、今年4月に1号機を完成させた。さて、街で見かけるキッチンカーとは何が違うのだろうか。

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