西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。老化に身を任せながら、よりよく老いる「ナイス・エイジング」を説く。今回は「心を自由にする」。

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【不動智】ポイント

(1)体が多少、不自由でも心はあくまで自由でありたい

(2)心がとらわれると、心を動かそうとしても動かない

(3)気功や呼吸法は心を自由にするための方法のひとつ

 最近、心が不自由だなと思うことはありませんか。歳をとると、体は不自由な部分が出てきます。でも、心まで不自由になる必要はありません。体が多少、不自由でも心はあくまで自由、それがナイス・エイジングのあり方だと思います。

 では、なぜ心が不自由だと感じてしまうのでしょうか。私が心のことを考えるときに読み返すのが、沢庵宗彭の『不動智神妙録』です。これは臨済宗の僧、沢庵和尚が剣術家の柳生但馬守宗矩に向かって、剣禅一如を説いたもので、日本兵法の確立に大きな影響を与えました。沢庵和尚は次のように語ります。

「諸仏不動智という言葉があります。不動とは動かないということ、智は智恵の智です。動かないといっても、石や木のように、全く動かぬというのではありません。心は四方八方、右左と自由に動きながら、一つの物、一つの事には決してとらわれないのが不動智なのです」(『沢庵 不動智神妙録』池田諭訳、タチバナ教養文庫)

「千手観音だとて、手が千本おありになりますが、もし、弓を持っている一つの手に心がとらわれてしまえば、残りの九百九十九の手は、どれも役にはたちますまい。一つの所に心を止めないからこそ、千本の手が皆、役に立つのです」(同)

「何かを一目見て、心がとらわれると、いろいろな気持や考えが胸のなかに湧き起こります。胸のなかで、あれこれと思いわずらうわけです。こうして、何かにつけて心がとらわれるということは、一方では心を動かそうとしても動かないということなのです。自由自在に心を動かすことができないのです」(同)

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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