芸術家として国内外で活躍する横尾忠則さんの連載「シン・老人のナイショ話」。今回は、孤独について。

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 高齢者には孤独に悩む人もいます。孤独に悩みつつ、安易に誰かと関係を持ちたくないという複雑な心理もあるようです。家族と暮らしていても孤独を感じるようです。孤独を感じたことがありますか。ひとりで強く生きていく、うまい方法はありますか。

 この質問に対して答える自信はないですが、高齢者だからというのではなく、僕はもともと子供の頃から、ひとりっ子育ちで、孤独が当たり前の環境で育ったので、孤独という言葉がピンとこないんですよね。高齢者の今まで、ズーッと孤独といえば孤独ですが、孤独ということを考えたことがないんです。養子先の両親がすでに老人だったので、親と話が合うということもなく、話が合わないのが当然というか、このことが自然なので、何の問題もなかったように思います。兄弟がいれば楽しいだろうなあ、とも考えたこともなく、うるさくかまう人もいなかったから、ある意味で放っといてくれたのでかえって面倒臭いこともなく、ただ暇があれば絵ばかり描いていたように思います。近所には子供がいたので、彼等と遊ぶことで孤独をまぎらわすこともできたように思いますが、まあ、それ以前に孤独感に襲われることもなく、こんな言葉は僕の中には存在していなかったのです。

 絵を描く時だって、誰かがそばにいるとうるさいだけだし、小川に小魚を獲りに行くのが趣味で、誰かと一緒に行けば獲物はひとり占めできないので、小川や川へ行ったり、虫を追ったりも、いつも全てひとりです。こんな時は、わいわい人が沢山いると、魚も虫も獲れません。だから、僕の行為は全て、ひとりです。孤独が必要なんです。孤独でなきゃ、何ひとつ楽しめないのです。だから僕の遊びと孤独は必然的に一体化してなきゃならなかったのです。そんな子供の頃からの習慣が大人になって、今、高齢者になっても何ひとつ変わっていません。

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横尾忠則

横尾忠則

横尾忠則(よこお・ただのり)/1936年、兵庫県西脇市生まれ。ニューヨーク近代美術館をはじめ国内外の美術館で個展開催。小説『ぶるうらんど』で泉鏡花文学賞。2011年度朝日賞。15年世界文化賞。20年東京都名誉都民顕彰。

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