職業的な書き手ではない一般市民の手記には、脚色がないから面白い。そして、体験を伝えることは、生きるための知恵を次世代に手渡すことなのだと、星野さんは話す。

 連載中、新型コロナウイルス禍に直面し、戦時中に「不要不急」が叫ばれた状況と重なった。

「戦争中の『時局産業』とコロナ禍の『エッセンシャルワーカー』……。歴史は違った形でやって来るのですね。ウクライナの戦争もそうですが、私はつねに湧きあがらず一歩引いたところで世の中を見ていたいです」

 祖父から父に受け継がれた工場は、昨年で廃業した。

「本書を書いている間に、最期に立ち会えてよかった。祖父の手記を預かった役目も果たせたと思います」と、星野さんはすがすがしい笑顔で語った。(南陀楼綾繁)

週刊朝日  2022年9月23・30日合併号