作家・コラムニスト、亀和田武氏が数ある雑誌の中から気になる一冊を取り上げる「マガジンの虎」。今回は「ビッグコミックオリジナル」。

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 増刊号がじつは凄い。青年コミック誌はここが侮れないところだ。先週は「サライ」の特集<「日本漫画」は大人の教養>を紹介した。すでに国際的にも評価された描き手が顔を揃えたが、今回はがらりと趣向を変える。

 娯楽性とシリアスさを併せ持つ「ビッグコミックオリジナル」(小学館)は私の愛読誌だ。「オリジナル」は月に2回刊。そして隔月で増刊号が刊行されるのだが、これが読ませるんだよ。いま店頭に並ぶ9月増刊号では、やはり松本大洋『東京ヒゴロ』の連載にまず目がいく。

 代表作には事欠かない松本だが、現在のポジションに安住しない。テーマの尖鋭さと、絵の繊細さは、常識に抗する新人マンガ家のようにエッジが効いている。いまのマンガに飽きたらない、決してもう若くはないマンガ家と編集者の苦悩と挑戦を大胆かつ細やかに描くって凄いよ。60年代半ば貸本劇画誌で読んで衝撃を受けた永島慎二の『漫画家残酷物語』みたいだ。

 新連載も次つぎ始まった。個性的な姉妹が、長野の山荘での叔父の死を解明する森泉岳土『佐々々奈々の究明』。見やすい絵なのに洗練されていてテレビドラマ化にもってこいだ。

 高校生の少年が年上の“運命の女”と出会ってしまう、むつき潤『ホロウフィッシュ』の謎と叙情、さらには微かな笑いの魅力も次号が待ち遠しくて仕方ない。これも勝手に、映画化、ドラマ化したときの構成やキャストを妄想して楽しんでいる。

 新人賞受賞作37ページを一挙掲載した野利のり太『K7百』も『攻殻機動隊』をハートウォーミングにした味がある。

 つげ義春『ねじ式』だって、「ガロ」68年6月の増刊号「つげ義春特集」に突如書き下ろされた。本誌も大事だけど、増刊号には明日の宝が載っている。

週刊朝日  2022年9月16日号