小説家・平山瑞穂さんが『大東亜共栄圏 帝国日本のアジア支配構想』(安達宏昭、中公新書 968円・税込み)を読む。

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 第2次大戦中、満蒙を足がかりとして東南アジアや南洋へと版図を広げていった帝国日本。その象徴としての「大東亜共栄圏」はしばしば、「アジア解放」といった遠大なスローガンとともに語られがちだが、それが実は、イデオロギーというより、資源に乏しい日本が英米という巨大な敵と戦うための経済自給圏の獲得を第一の目的とした構想だったことを、本書は鮮やかに喝破している。

 この構想をめぐって、特に経済的な側面に着目し、物資や産業、ロジスティクスの動きを追う中で、フィリピン、ビルマ、インドネシアなど圏内各地域でそれぞれ異なっていた事情、それに対して軍政がいかに対処したか、そのどこに無理があったのかを浮き彫りにしていく筆致はみごとだ。準備不足を繕うための相次ぐ弥縫策で帝国日本が追いつめられていくさまが手に取るようにわかる。

週刊朝日  2022年9月16日号